2014 Fiscal Year Annual Research Report
分子レベル安定同位体比分析を用いたサンゴ礁生態系における低次栄養段階の食物網解析
Project/Area Number |
14J00884
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
中富 伸幸 創価大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 動物プランクトン / 懸濁態有機物 / サンゴ礁 / 安定同位体比 / GC/MS / 食物網解析 / 低次栄養段階 |
Outline of Annual Research Achievements |
予定通り、2014年7月に沖縄で、2015年1月にマレーシアで試料採集を行った。また、当初の予定に加えて、比較試料として相模湾において試料採集を行った。 懸濁態有機物(POM)について時空間的に異なる様々な試料を分析し、サンゴ礁内外におけるPOMに含まれる有機物の化学的性質の特徴が明らかになってきた。一方で、試料採集や分析における物理的・時間的な制約上、当初可能であれば解析対象とする予定であったDOMの試料は本研究の範囲外として扱うことにした。また、採集されたサンゴ粘液試料や堆積物試料ついても分析を終えており、同生態系の食物網の炭素源として評価するために解析を継続している。 マレーシアにおいて採集した試料について、異なる分類群に属する動物プランクトン8種と、比較試料としてより高次の栄養段階である小型魚類や貝類の試料8種のアミノ酸の分子レベル安定同位体比を測定し比較した。これにより、これまで形態学的に報告されている食性から推測される栄養段階と、アミノ酸安定同位体比から推定した栄養段階では必ずしも一致しないことが明らかとなった。この理由は餌資源が限られている環境であるサンゴ礁生態系では、一般的な外洋で報告されている餌以外のものも捕食している可能性が考えられた。 これまで解析をしてきたマレーシアのサンゴ礁の動物プランクトン試料以外に、沖縄のサンゴ礁と相模湾で採集した試料については同定・分類をし、分析の前処理まで終了している。今後はこれらの試料と比較することにより、熱帯・亜熱帯・温帯域の動物プランクトン群集のうち同系統の種が環境の違いで、どのような栄養段階に位置するのかを比較検討した上で、サンゴ礁の低次生態系における食物網を明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定した試料についてはおおむね順調に分析を終了した。サンゴ礁生態系の動物プランクトンの主要な餌資源と予想していた、懸濁態有機物(POM)の有機物組成と同位体比組成を時空間に解析した結果、各種動物プランクトンが示した安定同位体比の違いを説明する根拠とはなりえなかった。このことを踏まえ、熱帯のサンゴ礁以外からも動物プランクトンを採集し、比較して考察をしていく方針にした。 また一部試料については、本研究の主要な分析機器の不調によるメンテナンス等で予想外に分析が遅れたため、2年目に継続的に分析することとした。また新たに採集した試料についても順次前処理を行い、分析していく。 当初は初年度に得た結果をもとに論文を一報投稿する予定であったが、データの分析および解析が遅れているため、引き続き2年目に投稿する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はマレーシアで採取した試料以外に、沖縄と相模湾で採集した試料の分子レベル安定同位体比を分析し、「温帯・亜熱帯・熱帯」の異なる海域に生息する同種または近縁種の同位体比を比較する。これにより、サンゴ礁における動物プランクトン群集の栄養段階を正確に見積もることができ、さらには同分析法の動物プランクトンへの応用例としてデータの精度を担保しつつ、今後さらに他のプランクトンに応用する際の分析における留意点等を抽出する。 また、サンゴ礁生態系の低次栄養段階の食物網モデルの構築に向けて、本学の別の研究室のメンバーらによって同じ調査地において過去に行われた未発表の研究データを参照し、同生態系の一次生産量等のデータを取り入れていく。さらにこれまで解析をしてきたPOMの時空間動態を考慮し、どのような餌資源がどのような種に利用されているのかといった、炭素フローを解析していく。サンゴ礁生態系の物質循環は非常に複雑であるため、可能な限り細かい動物プランクトンの種の同定を行い、群集を細分化して議論していく。加えて、これら動物プランクトンを捕食するような魚類や底生生物のデータも考慮してモデルを構築していく。 成果の発表については、比較試料として他の海域から採集した試料を優先的に分析し、それらのデータと合わせて議論することが妥当と判断したため、これらの分析結果を踏まえて論文を作成していく。可能であれば、国内外の学会で最新の成果について発表する予定である。
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Research Products
(2 results)