2014 Fiscal Year Annual Research Report
臨床音楽研究-音楽療法・コミュニティ音楽・生の音楽-
Project/Area Number |
14J00976
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
嶋田 久美 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 音楽 / 音楽療法 / 生態学 / コミュニティ / ケア / 身体 / 関係 / 制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、音楽は、治療やケアの一環として、心理療法、作業療法、発達障害支援、高齢者福祉、ターミナルケアなどの各領域において様々な形で取り入れられている。本研究の目的は、医療福祉の現場における音楽(臨床音楽)の役割と機能を思想面と実践面の双方から検証することである。1年目である平成26年度は、主に以下の3点について考察した。 (1)コミュニティ音楽療法(CoMT)の興隆:近年、イギリスと北欧を中心に国際的な発展をみせているCoMTが提唱されるに至った経緯と意図を一次文献の精読を通して明らかにした。従来の音楽療法が基本としてきた「治療者-患者」という医療的な二者関係モデルに依拠することの限界性と、個人と音楽との多元的な関係性を集団や場の連続性からより柔軟に捉え直す生態学的視点への転回が重要となることを明らかにした。 (2)即興音楽の間身体性:即興音楽療法における「クライエントとセラピスト」という関係の協働性を、音楽行為を通じて共在する身体と身体のあいだに形成されるテリトリーと表現の余剰性という観点から捉え直した。それは、一方向的かつ受動的な音楽受容や、音楽を単なる行動的・心理学的効果を有するある種の媒介物とみなす従来の音楽観と個人還元主義的な治療観の再考を迫るものである。 (3)精神科医療におけるアトリエ活動:フランスとスイスの精神科病院、精神科病院併設のアトリエ、アール・ブリュット関連施設を訪問し、活動の見学、関係者へのヒアリングおよび資料収集を行った。収集したデータの分析は現在鋭意進行中であるが、課題としては、場の集合性をとらえる指標の理論化である。現場では、参加者ごとに立場、目的、参加の意識が相当に異なるがゆえに、参加の次元のムラを担保しうる関係性と空間性の持続的な創出がまずは重要となる。そのような場の営みに流れる時間性について引き続き検討していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来、臨床に関わる音楽は、音楽療法、コミュニティ音楽、アウトサイダー・アートなどの問題として個別に論じられてきた。しかし本研究では、それら従来の枠組みを成り立たせている制度の精査を通じて、臨床音楽の諸相を人間の生・音楽表現・共同体をめぐるひとつの問題系として捉え直すことを目指している。初年度は、コミュニティ音楽療法、即興的音楽療法、精神科医療におけるアトリエ活動という3つの異なる角度からの調査と考察により、臨床領域における治療観と芸術観の関係性、およびその問題点を明らかにすることで、一定の成果を得ることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで取り扱ってきた議論を、音楽の医療化と制度化というテーマのもとに総括し、学術誌への投稿、および博士論文を執筆することでより具体化していく予定である。
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Research Products
(1 results)