2014 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト組織を用いたPGE2-EP4シグナル抑制による新規大動脈瘤治療法の開発
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14J01039
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
石渡 遼 横浜市立大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 腹部大動脈瘤 / プロスタグランディンE2 / EP4 / 平滑筋細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
腹部大動脈瘤(腹部瘤)は高齢者の発症率が高い疾患であるが、現在その進行を抑制できる内科的治療薬はない。我々は、プロスタグランディンE2 (PGE2)とその受容体であるEP4が腹部瘤を増悪させることを発見した。本研究はその進行メカニズムを明らかにすることを目的にする。 【ヒト腹部瘤組織を用いたEP4誘導性増悪因子の同定】 横浜市立大学付属病院および市民総合医療センターにおいて採取されたヒト腹部大動脈瘤組織7検体(患者の承諾, 本学・倫理委員会の承認のもと提供)を実験に用いた。組織小片をEP4刺激薬で刺激した。分泌されたタンパク質をLC/MS/MSにより網羅的に同定し、同時に各タンパク質の量を比較した。17種のタンパク質がEP4刺激依存的に増加しており、腹部瘤の進行と関連が深い MMP-9 や、その他の分解酵素、 細胞外基質、 好中球関連分子が含まれていた。 【EP4による大動脈瘤進行における平滑筋細胞の働きの検討】 上の結果から、EP4刺激は細胞外基質の分解を促進するとともに、好中球の活性化に働く可能性が見出された。我々の先行研究の結果より、腹部瘤壁では平滑筋細胞でのEP4発現が顕著に増加していることが示されていることから、平滑筋細胞からEP4刺激下で分泌される因子が好中球の活性化に関与しているという仮説を立てた。ヒト血管平滑筋からEP4刺激下で分泌が増加する分子として、IL-6や好中球の活性化を促進するG-CSF (granulocyte-colony stimulating factor)が見出された。G-CSF発現はヒト腹部瘤組織およびマウス腹部瘤組織において発現が亢進していた。 上記の結果より、EP4による腹部瘤の進行には平滑筋細胞由来のサイトカインによる好中球の活性化が関与する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までに、ヒトの腹部大動脈瘤組織7検体に関してタンパク質の網羅的解析を行った。中膜組織の1-2mm角小片を器官培養し、24時間の前培養の後、 無刺激群, EP4刺激薬 (ONO-AE1-329, 1μM), PGE2, (1μM), PGE2+EP4阻害薬(ONO-AE3-208, 1μM)の4群に分けて24時間培養を行った。培養上清中の分泌タンパをトリプシン消化後,にiTRAQで標識し, LC/MS/MSによりタンパク質の網羅的同定・比較定量を行った。776種類のタンパク質が同定され、分泌性タンパク質は280種類同定されてた。 さらに、EP4刺激薬、 PGE2 により1.3倍以上に発現が増加し(対無刺激)、 EP4阻害薬により0.77倍以下に減少する(対PGE2)傾向のあるものが17種同定された。この中には、大動脈瘤の進行に関連が深いタンパク質分解酵素である MMP-9 や、その他のタンパク質分解酵素、 細胞外基質、 好中球関連分子等が含まれており、PGE2-EP4シグナルによる大動脈瘤の増悪に関与する可能性のある分子が同定された。これにより2年目までの達成目標として実験が終了した。 腹部瘤を含めた動脈疾患の研究においては、立体的な弾性線維を有した実験系が存在しないことがひとつの制限となっていた。筆者は、大阪大学工学部・明石研究室で開発された細胞積層技術を応用して、弾性線維を有する平滑筋細胞の三次元積層体の構築に成功した。疾患モデルとしての有用性を検討するため、三次元平滑筋細胞体をPGE2で刺激し、PGE2刺激が平滑筋細胞の層構造の崩壊と、弾性線維の分解を惹起することを示した。さらに、本モデルでは活性化マクロファージの浸潤とそれに伴う弾性線維の分解が観察可能だった。これらの結果は筆頭著者として論文発表を行った(Atherosclerosis, 2014)。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目の研究成果より、PGE2-EP4シグナルは平滑筋細胞によるサイトカインの分泌を促進する可能性、それによる好中球の活性化が腹部瘤において亢進している可能性が示唆された。この仮説を検証するため、2年目以降は遺伝子改変マウスを用いた解析を行っていく。Cre-loxPシステムを用いて、SM22αのプロモーター活性化でヒトEP4遺伝子が平滑筋選択的に発現するマウス(EP4 トランスジェニックマウス)を使用する。本マウスでは大動脈の平滑筋組織でのEP4発現がおよそ7倍に増加すること、外来性EP4が主要なセカンドメッセンジャーであるcyclic AMPの増加を亢進することを既に確認した。また、本マウスにアンジオテンシンIIを継続的に負荷し血管炎症を惹起すると、腹部瘤が発症することが既に確認された。 今後は、本マウスで発症する腹部瘤に、好中球などの免疫細胞の活性化が関与するか、また、G-CSF等好中球の活性化に関与するサイトカインがin vivo でも増加しているのかを検討する。 上記の仮説を更に検討するために、1年目で発表した三次元細胞積層体を応用する。PGE2刺激した平滑筋細胞の積層体においては好中球やマクロファージの浸潤や、弾性線維の分解が促進されているのか検証する。
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Research Products
(7 results)
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[Journal Article] Prostaglandin E2 inhibits elastogenesis in the ductus arteriosus via EP4 signaling.2014
Author(s)
Yokoyama U, Minamisawa S, Shioda A, Ishiwata R, Jin MH, Masuda M, Asou T, Sugimoto Y, Aoki H, Nakamura T, Ishikawa Y.
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Journal Title
Circulation
Volume: 129(4)
Pages: 487-496
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Three-dimensional multilayers of smooth muscle cells as a new experimental model for vascular elastic fiber formation studies.2014
Author(s)
Ishiwata R, Yokoyama U, Matsusaki M, Asano Y, Kadowaki K, Ichikawa Y, Umemura M, Fujita T, Minamisawa S, Shimoda H, Akashi M, Ishikawa Y.
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Journal Title
Atherosclerosis
Volume: 233(2)
Pages: 590-600
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Decreased serum osmolality promotes ductus arteriosus constriction.2014
Author(s)
Aoki R, Yokoyama U, Ichikawa Y, Taguri M, Kumagaya S, Ishiwata R, Yanai C, Fujita S, Umemura M, Fujita T, Okumura S, Sato M, Minamisawa S, Asou T, Masuda M, Iwasaki S, Nishimaki S, Seki K, Yokota S, Ishikawa Y.
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Journal Title
Cardiovascular Research
Volume: 104(2)
Pages: 326-36
DOI
Peer Reviewed
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