2014 Fiscal Year Annual Research Report
分子発生生物学的アプローチによる陸上植物の雄性生殖器官および精子の分化過程の解析
Project/Area Number |
14J01153
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
肥後 あすか 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | トランスクリプトーム解析 / メタボローム解析 / 植物の精子の形成過程 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
RNA-seq.解析に用いた器官での各遺伝子の発現量を比較した結果、ゼニゴケのゲノムにコードされている23498遺伝子のうち、731遺伝子が他の器官と比較して造精器で有意に高発現することを明らかにした。造精器で有意に高発現する遺伝子には、造精器形成過程に特異的なシグナル伝達経路に関与すると考えられる、転写因子が16遺伝子含まれていた。現在、本研究において行ったトランスクリプトーム解析により得られた結果を国際誌に論文として報告するための準備を行っている。さらに、同定した造精器特異的な転写因子16個の雄性配偶子の形成過程に沿った詳細な発現パターンをRNA in situ hybridization法によりに解析し、遺伝子破壊株を作成し雄性配偶子の形成過程に異常を示すかを検証している。これらの解析により、同定した転写因子の1つは精細胞の分化に関与することが示唆された。さらに複数の鞭毛構成因子や核の凝集に関与する因子の転写時期をRNA in situ hybridization法により解析した結果、複数の鞭毛の構成要素が雄性配偶子の形成の後期の過程において一過的に転写されており、この後に核の凝集に関与する因子が転写されることを示した。 器官別の代謝産物のプロファイルをメタボローム解析により比較した結果、造精器では他の器官に比べて、クエン酸回路の一部の代謝産物が高蓄積していることがわかり、活発に増殖分裂をする精原細胞では、他の器官とは異なる基礎代謝経路により必要なエネルギーを得ていることが示唆された。また、器官別のトランスクリプトーム解析の結果から、造精器で高発現する代謝関連酵素を複数同定した。これらの中には、被子植物の花粉壁の形成に関与するものが含まれており、さらにその酵素の発現を制御する転写因子や代謝産物のトランスポーターの相同遺伝子も造精器で高発現していることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ゼニゴケの分化過程にある造精器で特異的ないしは優先的に発現している遺伝子の網羅解析からは、16個の転写因子をはじめとする興味深い分化制御因子候補が同定でき、遺伝子破壊株の作出と解析も進んでいる。また、in situ RNAハイブリダイゼーション等の地道で丁寧な解析から、今後の研究の基盤となる分化過程の記述が可能になるとともに、新たな問題の発見もなされつつある。そうした点も含めて、平成26年度の研究成果によって、造精器と雄性配偶子の分化過程の遺伝子発現の大まかな枠組みを描くことができるようになったことから、それを国際誌への投稿論文としてまとめており、現在,最終的な推敲段階にある。また,同定した転写因子の機能解析については,国際的な共同研究に発展しつつあり、平成27年度における研究の大きな展開が期待できるため、当初の計画以上に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に行った、トランスクリプトーム解析の結果より同定した、造精器で高発現していた遺伝子の機能を転写因子を中心に解析し、ゼニゴケの雄性配偶子形成過程を明らかにする。具体的には、詳細な発現パターンをRNA in situ hybridization法およびレポーター系統の作出とその観察により解析し、遺伝子破壊株の作出と雄性配偶子形成過程の観察により精子形成過程における機能を明らかにする。 同定している造精器特異的な転写因子のうち9遺伝子は、シロイヌナズナの相同遺伝子が、有性配偶子形成過程に関与することが知られていることから、運動能をもたない精細胞を形成する被子植物と運動能を持つゼニゴケの精子の形成過程を制御するシグナル伝達経路の相違点に着目して解析していく。 さらに、造精器の活発に分裂する精原細胞における一次代謝の特徴を詳細に解析するとともに、代謝に必要なエネルギー源をどのようにして精原細胞に供給しているかを、トランスポーターの局在を観察することで解明していく。
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Research Products
(2 results)