2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J01171
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藪下 瑞帆 北海道大学, 総合化学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | バイオマス / バイオリファイナリー / 炭素 / 吸着 / 加水分解 / セルロース / グルコース |
Outline of Annual Research Achievements |
セルロース加水分解反応に対して高い触媒活性を示すアルカリ賦活炭(以下K26と表記)上へのグルカン(グルコース、セロビオース、セロトリオース)の吸着過程を調べた。まず、セロビオースの吸着実験を行ったところ、K26が持つミクロ孔(平均直径0.7nm)にセロビオース分子が取り込まれたことが示唆された。このことは、酵素の触媒活性サイトに存在する細孔と同様に、炭素のミクロ孔にも基質を取り込む能力があることを示している。次に様々な温度で吸着実験を行い、Langmuir式およびvan't Hoff式を用いて解析した。いずれの吸着質を用いた場合でも負のエンタルピー変化と正のエントロピー変化が得られた。つまり、本吸着過程はエンタルピーとエントロピーの両方により駆動されていることが分かった。対照実験ならびにDFT計算の結果から、それぞれの値は炭素とグルカンの間に形成されるCH-π水素結合と、疎水性相互作用に由来することが示唆された。従って、グルカンと炭素の疎水性官能基が引き起こす相互作用が本吸着過程の駆動力であり、それによりもたらされる両者の高い親和性が炭素の高い触媒活性に寄与していると推測している。 また、グルコースから工業的に誘導可能なソルビトールの転換反応に着目した。ソルビトールを硫酸存在下で脱水させ、環境低負荷な界面活性剤の原料となる1,4-ソルビタンを良好な収率(58%)で合成した。一般に、1,4-ソルビタンは酸触媒存在下で容易に逐次脱水を受けるため、良好な収率で合成することは難しい。そこで硫酸の特徴的な触媒作用を明らかにするために動力学的な解析を行った。その結果、1,4-ソルビタンと比較して、ソルビトールは硫酸と会合体を4.3倍形成しやすいことが分かった。従って、1,4-ソルビタンは硫酸と相互作用しにくく逐次脱水が抑制されるため、選択的に合成することができたと結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の課題は、(i)炭素のミクロ孔内にグルカン分子が取り込まれること、(ii)結晶セルロースを基質に用いた場合においても炭素の触媒作用により加水分解を進行できることの二点を実証することとした。一点目については、研究実績の概要で述べた通り、セロビオースがK26のミクロ孔内に吸着することが示唆されており、おおむね達成することができた。また、吸着過程における駆動力を熱力学的な解析およびDFT計算を用いて明らかにすることができた。二点目については、炭素材料による結晶セルロースの加水分解を引き続き検討中である。加えて、当初設定していなかったソルビトール脱水反応における硫酸の触媒作用について、査読付原著論文ならびに数々の学会で発表した。以上を総括し、本年度の研究の進捗状況は「(2)おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究から、グルカン分子の炭素表面への吸着過程についての知見が得られた。一方で、吸着過程が触媒活性にどのように寄与しているかは分かっていない。そこで、炭素との親和性、すなわち吸着平衡定数が異なる糖分子を基質に用いて加水分解を行い、相互作用のし易さが反応速度に与える影響を検討する。同時に、従来の均一系酸触媒(塩酸、硫酸等)と比較することにより、炭素触媒の特異性を明らかにする。 次に、炭素触媒の応用を検討する。セルロースに次いで天然に豊富に存在するバイオマスであるキチンは、これまで酵素もしくは濃塩酸によりその解重合反応が行われてきた。しかし、プロセスの効率化、環境に対する影響の観点から、固体触媒法への転換が望ましい。キチンはセルロース類似の分子構造を持つため、セルロース加水分解反応に対して高い活性を示す炭素触媒が、キチンの加水分解にも同様に適用可能と考えられる。そこで、炭素触媒を用いて、世界初の固体触媒によるキチン解重合法の確立を目指す。
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Research Products
(12 results)