2014 Fiscal Year Annual Research Report
J.-P. サルトルにおける美学-倫理体系およびその思想史的意義の解明
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14J01172
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Research Institution | Tsuda College |
Principal Investigator |
根木 昭英 津田塾大学, 国際関係学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | J.-P.サルトル / 美学 / モラル・倫理 / 現象学 / 実存主義 / 国際研究者交流(フランス) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、サルトルにおける美学-倫理体系を再構成し、その思想的意義を、思想史的文脈との関係、彼の全営為との関係という二つの観点から包括的に提示することである。そのための具体的作業として、本年度は[1]フッサール現象学受容の観点における二元的文学言語論の研究、[2]60年代弁証法的モラルと美学-倫理との関係の考察を中心に研究を進めた。 [1]サルトルにおける言語二元論に、フッサールから継承された「記号/イマージュ」、文学ジャンルとしての「散文/詩」、言語伝達性に関わる「成功/挫折」という三つの位相を区別し、これらすべてにおいて言語二元論が両義的である点を明らかにした。具体的には、「記号/イマージュ」の区別は、すでに『論理学研究』、『イデーンI』(フッサール)において、それ自体は必ずしも論証されていない「志向の差異=本性の差異」という前提に依拠しており、よって絶対的ではありえない点、また、経験的区別である「散文/詩」についても事情は同様である点を示した。さらに、分析的-方法論的区別である「成功/挫折」についてのみ二元性は絶対であるが、同時にこの二元論は理念的なものであり、経験的地平においては、この区別もやはり両義的でしかありえない点を確認した。 [2]弁証法的モラルと美学-倫理体系との比較研究を通じ、一見相矛盾するサルトルの両思想体系が、逆説的な仕方で接続可能である点を明らかにした。弁証法モラルにおいて、倫理性は「非条件的なもの」の実現可能性に求められると同時に、現代の疎外状態において、それは不可能であるとされる。〈悪〉=疎外されたモラルの選択である芸術的営為は、直接にはこうした倫理性に対立するが、それは現代における倫理の不可能性の徹底化でもあるゆえに、最終的には人間的疎外一般の「証言」へと転化する。芸術と弁証法的モラルとのこうした両立性を、テクスト分析を通じて明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究課題として予定していた、サルトルにおける「詩的な世界内存在」の様態的側面の考察およびサルトルの「神」概念に関する研究については、本来の年次計画とはやや前後するものの来年度に行うこととし、来年度以降の予定課題であった、上記フッサール現象学受容の観点における二元的文学言語論の研究、および弁証法的モラルと美学-倫理との関係の考察に取り組んだ。これは、二元論的文学言語論に関わる課題に関しては、在外研究先での受け入れ研究者の目下の研究テーマとの関連性が高く、在外先で取り組んだ方が有益であるとの判断があったためである。また弁証法的モラルに関する課題については、サルトルのタイプ原稿マイクロフィルムが入手できるなど、関連資料収集が予定より順調に進んだため、研究の蓄積が比較的少ない当該課題に優先的に取り組んだ方がよいとの判断に拠った。 本研究の各課題は、論理的核であるサルトルの美学-倫理体系に関わる諸論点を、それぞれ独立に深化・拡張させつつ設定したものであるため、以上の課題実施順組み換えによる全体の研究計画への変更はない。状況に合わせて実施順序を組み直すことで、在外研究での環境を生かした現地研究者との意見交換、比較的手薄であった課題の重点的実施を、より効率的な仕方で行うことができた。したがって、本年度の研究進捗はおおむね順調なものであったと総括できる。 得られた成果に関しては、本年度発表された日本語論文に部分的に反映されているほか、それぞれの課題ごとにこれを仏語論文にまとめたうえで、在外先受入研究者に助言を仰いでいる。これらの仏語論文については、必要な修正を施したうえで、今後の現地発表に用いるとともに、最終的な研究成果に統合する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
年度前半は在仏研究を継続し、年後半以降は帰国して津田塾大学(受入機関)をおもたる研究の場とする。年前半の在仏期間には、サルトル未刊の学位取得論文(1927年、個人蔵、非公開)の閲覧交渉に当たって一次資料収集の完璧を期するとともに、引き続き仏国立図書館、ソルボンヌ図書館、各大学図書館や独国立図書館などで二次資料、未刊行博士論文の収集を進める。 課題遂行の面では、サルトルにおける美学-倫理体系の思想史的解明という目標に沿って、引き続き年度課題の実施を進める。年次計画において、実施を予定していたフッサール受容関連の研究は前述のようにすでに終了しているため、本年度中に行う予定であった、[1]サルトルにおける「詩的な世界内存在」の様態的側面の考察、および[2]サルトルの「神」概念に関する研究におもとして取り組む。 [1]年前半には、「詩的な世界内存在」の様態的側面を中心主題として、詩的投企の哲学と「芸術至上的単独者の思想」との関係の解明と、詩的投企の哲学形成をめぐる系譜的考察を行う。具体的には、プレイヤッド叢書で新資料も多く発表されたサルトルの自伝的著作群を精読する作業、これまでに得られた研究成果をもとに時間性の観点から小説作品を再編成する作業、「詩的な世界内存在」をめぐる思想の練り上げに際してサルトルが参照したと考えられるハイデガーら他思想家の著作を美学-倫理体系の各論点からまとめ直す作業がおもとなる。[2]年後半には「詩的な世界内存在」の哲学的含意を主題として、博士課程の研究でまとめたサルトルの「神」概念を「自己原因」の観点から整理しなおし、サルトルの「神」概念形成におけるデカルトら他思想家の受容を発生論的に跡付けることとする。
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