2015 Fiscal Year Annual Research Report
J.-P. サルトルにおける美学-倫理体系およびその思想史的意義の解明
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14J01172
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Research Institution | Tsuda College |
Principal Investigator |
根木 昭英 津田塾大学, 国際関係学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | J.-P. サルトル / 美学 / モラル・倫理 / 自己原因 / 神学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、サルトルにおける美学-倫理体系を再構成し、その意義を、思想史的文脈との関係および彼の全営為との関係の視点から包括的に提示することである。その一環として、本年度は[1]サルトルにおける「詩的な世界内存在」の様態的側面の考察、[2]「自己原因」の概念史に照らしたサルトルの神概念の検討を中心に研究を進めた。 [1]1930年代から70年代にいたるサルトルの批評群を資料として、①世界開示、②創造、③存在論の三観点から「詩的な世界内存在」をめぐる思索が統一的に解釈できることを示した。①詩的な世界内存在は「目的性の逆転」による世界開示として説明される。②この開示は「無カラノ創造」(意識のみの相関者としての世界)と等値であり、③その意味で、「自己原因=神」たらんとする存在投企へと収斂する。さらに、以上の議論とハイデガー(『存在と時間』『芸術作品の根源』等)との対照から、両哲学者における芸術(とりわけポエジー)の位置づけの差異―道具的秩序の「逆転」としての特殊的位置(サルトル)/道具を含めたすべての存在者の真理を明るみに出すというより根源的な位置(ハイデガー)―が明らかとされた。 [2]トマス・アクィナス(自己原因=神の批判)からデカルト(自己原因と類比的に考えられる力能としての神)、スピノザ(作出的自己原因=内在因としての神)を経てライプニッツ(理由としての神)にいたる自己原因と神の概念史を、二次文献(J.-L.マリオン、M.ゲルー、V.カローら)を参照しながら概括し、こうした文脈におけるサルトルの神=自己原因概念の特徴を整理した。その結果、サルトルの①神学的伝統への(表層的)忠実さ、②実存的水準における神への「無関心」と、その表裏をなす、伝統的自己原因概念の我有化、③「自己原因」が持つ二重の意味(神/人間的意識の自発性=自由)、④神概念の人間化(意識存在化)傾向、の四点が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、[1]サルトルにおける「詩的な世界内存在」の様態的側面の考察、および[2]サルトルの「神」概念に関する研究を課題として予定していた。[1]については、当初の仮説である、「詩的な世界内存在」概念の一貫性にテクスト的確証を与えることができ、作業が予定通り進展した。[2]については、現代の論者の見解を反映した「自己原因」概念史の視角から、サルトルの神概念に新たな光を当てることができた。以上の調査内容については、論文にて部分的に公にした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の第三年次には、津田塾大学をおもたる研究の場として、「審美的倫理学」に関連する諸課題を実施する。当該課題に関しては、本年までの研究で当初予定以上に研究が進展している。したがって第三年次には、当該課題の研究蓄積を文章化するとともに、三年間の研究をサルトルの美学-倫理体系の論理秩序に沿って整理し、一つの成果として統合していく予定である。
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