2015 Fiscal Year Annual Research Report
メタゲノム解析による黒潮域小型カイアシ類の生態学的挙動と被食者としての役割の解明
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14J01192
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Research Institution | Japan Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
平井 惇也 国立研究開発法人水産総合研究センター, 海洋・生態系研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 黒潮 / カイアシ類 / イワシ類 / メタゲノム / Oライン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、黒潮域における小型カイアシ類の群集構造の時間的・空間的な変動、それに影響を与える環境要因、および魚類餌料内の小型カイアシ類の群集組成を明らかにすることを主な目的とした。2年目である平成27年度は初年度の調査で得られた試料を用い、予備実験の結果に基づいて解析を行った。はじめに、マイワシの主要な産卵期である2015年2月の土佐湾の4測点で得られた試料を用い、現場のプランクトン群集とイワシ類仔魚の消化管内容物解析を行った。消化管および現場プランクトン試料はDNA抽出後,真核生物の共通プライマーにより18S V9領域を増幅し,超並列シーケンサーIllumina MiSeq により網羅的な遺伝子解析を行った。メタゲノム解析の結果、イワシ類仔魚は小型カイアシ類に限らずゼラチナスプランクトンや原生動物など様々な生物を摂餌するが、大型カイアシ類のノープリウス幼生は特に重要な初期餌料であると考えられた。また,マイワシ・ウルメイワシ間で明確な摂餌の違いは見られず、主要な産卵場は異なるが、同所的に分布する場合は競合関係となりうることが示唆された。 さらに、中央水産研究所が黒潮域で設ける定期調査ラインで得られた前年度の試料を用い、28S D2領域のメタゲノム解析によって小型カイアシ類群衆の季節変化を明らかにすることを目的とした。季節ごとの多様性や優占分類群の詳細は解析中であるが、小型カイアシ類の中でも大型種の幼生由来と考えられる遺伝子配列の優占率は高く、幼生を含めた種レベルのモニタリングの重要性が示された。また、小型のカイアシ類の多様性も黒潮の内側、外側ともに季節ごとに大きく変動することも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目である平成27年度は前年度に得られた試料の解析を中心に行った。被食者としての役割の解明としては摂餌開始期のマイワシ・ウルメイワシの消化管内容物を行い、様々な餌料の中でも小型カイアシ類の重要性が再認識され、餌料として重要な種の特定も進められた。また、中央水産研究所が黒潮域で年5回行う定期調査で得られた試料の解析も進められ、小型カイアシ類群集における季節ごとの優占種が明らかになりつつある。得られた成果は国内外の学会・研究集会で口頭発表され、投稿論文としてもまとめられている。今後の継続的な研究により、黒潮域における小型カイアシ類の生態学的意義について理解が深まることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年である平成28年度は、これまでに得られた試料のデータ解析を中心におこなう。昨年度までにイワシ類の初期餌料に重要なカイアシ類がメタゲノム解析により明らかになり、黒潮域における小型カイアシ類の被食者としての役割についての知見を得ることができた。しかし、これら重要なカイアシ類の生態学的挙動については試料が不足し、解析は進んでいない。そこで、平成28年度は昨年度までに中央水産研究所が黒潮域で設ける定期調査で得られた試料を用い、この重要種の季節・経年変動を明らかにし、小型カイアシ類の生態学的挙動についての知見を得ることを目指す。また、メタゲノム解析は次世代の海洋モニタリング手法としても期待がさてており、精度の向上や遺伝子データベースの充実が求められている。そこで、調査船を使い継続的に試料を採集できる環境や、陸上でメタゲノム解析を今後も効率的に行える手法を構築する。さらに、カイアシ類各種の遺伝子配列データは継続的に蓄積し、黒潮域における時空間的な小型群集構造の変化の詳細や、不明な点も多い黒潮域の食物網の理解を促進させる体制を作り出す。また、これまでに得られた結果は研究論文や国内外の学会を通じて外部に発信する。
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Research Products
(8 results)