2014 Fiscal Year Annual Research Report
国際法における注意義務概念-国際義務の分類論の視点から-
Project/Area Number |
14J01258
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
樋口 恵佳 東北大学, 法学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | 国際法 / 海洋法 / 国家責任法 / 相当の注意義務 / 防止の義務 |
Outline of Annual Research Achievements |
国際法における注意義務概念について、義務の性質による分類(行為の義務・結果の義務、防止の義務)の視点から分析を行った。成果は大きく分けて3つにわたり、順に(1)19-20世紀初頭の判例に対する分析の成果、(2)歴史的な学説上の注意義務概念の取扱いに関する分析の成果、(3)現代的な判例および学説に対する検討の成果である。 (1)①直接責任/間接責任概念と国家の私人に対する注意義務との関連性について通説的見解に対する批判の可能性を見出すことができた。例えばB.E.Chattin事件判決(1927年)等によれば、直接責任/間接責任の理論が国際法上の一般的な注意義務概念の普及に貢献している。現代の通説的見解は代位責任や直接責任/間接責任の理論を退けているが、判例の理論構成の理解に偏りがあるとみられることから批判できる。 また同時代の判決の分析により、例えばArjona事件判決(1887年)において、②現代でいう国際法上の防止の義務が、一般的な注意義務概念で表現されていたことを実証的に確認できた。 (2)20世紀以降の判例・学説が、19世紀までの伝統的な国家の注意義務についてどのように評価していったかについて検討した。成果として、判例・学説の整理の結果、注意義務概念に関する各論者の理論的立ち位置による分類が可能になった。例えば権原と衡平原則から注意義務概念を説明するC. ルソーや、共同体的義務の途上にある国家の義務として捉えるフェアドロス等である。 (3)現代の判例における結果・行為、防止、相当の注意義務はかつてないほどに相互関連性が強調されていることが判明した。判例によれば、一次規則の解釈に関する概念(相当の注意)が二次規則にも踏み込むことがある。これにより、一次規則と二次規則の議論を分離したILCの立場を批判的に検討することが可能となった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、博士論文の完成が見込まれるためこの自己評価となった。 進捗状況は、研究計画書通りにおおむね進めることができている。1年目の検討目標であった①国際連盟の専門家委員会における議論、②国連国際法委員会における国家責任条文の起草過程における注意義務の議論、③同②の起草過程における政府見解のうち、②および③について完了した。1年目の検討としていた①国際連盟の専門家委員会における議論に関しては、資料収集機会の関係から、7月に訪問予定であるオランダのPeace Palace Libraryにおいて関連資料を収集したのちに取り組むことにした。なおその代わり、2年目の検討としていた④歴史的な学説に関する20世紀の学説による注意義務の理解の整理、⑤各時代毎の責任制度のまとめを先取りして進め、完了した。 以上の内容は、受入研究者である植木俊哉先生のゼミにて研究報告を行い、そこでの議論および指導を通じて研究の質の担保ができている。 このほか1年目の研究内容に関して、対外的な研究報告を行うことで、報告の場を通じて得られた知見を活かし、研究内容の深化を行うことができた。2014年に世界法学会若手研究会において「国家と企業をめぐる Due Diligence の性質」という題名で行った研究報告(口頭)が挙げられる。 また1年目に完了した内容について、2015年5月に京都で開催される東西合同若手研究会にて報告を行うことになっており、この場の議論を通じても研究の深化を行う予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の遂行方法として、以下の手順に沿って行う。 ①国家責任法を観念した学説の網羅を継続し、各論者が観念する国際法上の注意義務を調査・整理を行う。また、現代における海洋や環境に関する条約および政府見解に関する調査を行い、まとめる。この調査内容には、上述の「現在までの達成度」で触れた国際連盟の専門家委員会における議論の検討を含む。 ②国際法の注意義務の理解に関する各論者の性格付けがこれまでの研究により可能になっているため、これらと①との関係を明確に整理し、理論的にまとめ上げる。 ③既に明らかになった19世紀-20世紀の判例を元にした国家責任上の義務違反評価について、総合的考察を行う。この際、義務違反評価に使用される義務の性質による分類と、各分類された義務の相互関係に着目する。 ④③の内容を踏まえ、また②で明らかになった理論的枠組みと総合して、義務の分類論の視点を踏まえた国際法上の注意義務概念についての理論を構築し、博士論文としてまとめ上げる。
|