2014 Fiscal Year Annual Research Report
J-PARCにおける中性子電気双極子モーメント測定実験の為の測定セルの開発研究
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14J01295
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
片山 領 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | J-PARC / UCN 貯蔵実験 / 非鏡面反射 / DLC成膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
相対論的効果とマイクロラフネス模型に従う非鏡面反射の双方が扱えるシミュレーションを用いて中性子 EDM 測定の模擬実験を行い、測定セルの表面粗さが 2 nm RMS あれば系統誤差が十分抑えられることを確認した。 また、蓄積した超冷中性子 (UCN) を試料と反応させて中性子喪失率を測定する実験の準備を進めた。2014年4月と2015年3月に測定したデータを用いてシミュレーションを行い、98L の SUS316 容器であればフィジビリティーがあることを見出した。現在、このように設計した容器を用いて J-PARC における初の UCN 貯蔵が確認できた。 非鏡面反射を司る理論模型の検証実験のシミュレーション研究を行い、 BL05 で本実験を行うことは難しいとの結果を得た。一方、 BL16 の冷中性子を用いた測定は順調に行われ、非鏡面反射をよく記述する理論模型を発見した。 セルの内面コーティングに応用することを考え、 NiMo や Diamond-Like-Carbon (DLC) の成膜を試した。真空蒸着で NiMo 成膜したが本研究に必要なレベルに達しなかったため、来年度に別の手法で成膜を試す予定である。DLC は Filtered arc ion plating や Plasma-Based-Ion-Implatation-Deposition で成膜を行い、前者は世界最高レベルの中性子反射率が得られることを、後者では高い反射率で大面積コーティングできることを確認した。両試料の表面粗さを XRR や AFM で測定して本研究に応用可能なレベルであることを確認した。来年度には RBS/ERDA や SIMS で含有水素量を測定する段階に移る。Deutratated-Polystyrene の成膜に関してはスプレーコーティングによる成膜を検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画書にある研究内容は以下の三つである。 1. シミュレーションを用いた測定セルの設計 2. 製造工程の確立 3. 実験による性能試験と理論模型の評価 以下に 1~3 の自己点検を行う。 (1)相対論的効果と非鏡面反射の双方を考慮したシミュレーション研究から表面粗さ 2 nm RMS の壁材を持つ測定セルに用いることで中性子 EDM 測定における系統誤差を抑えられることを確認できた。このような研究は今までになかったものであり、その意義は極めて大きいと考えられる。一方で、水素起因の中性子喪失効果を組み込んだシミュレーション研究に関しては進展はない。従って、本項目の研究に関しては想像以上に進んでいる箇所とそうでない箇所が半々ある。 (2) 製造工程にセルの内面コーティングを組み入れることを考えて成膜のテストを行い、世界最高レベルの中性子反射率を達成する DLC 成膜法を発見した。一方、研究内容にあった Deutratated-Polystyrene 成膜に関して特に進展はなかった。また、含有水素量や表面粗さの制御に関するスタディも進んでいない。本項目の研究に関しては計画以上進んでいない度合いの方が大きい。 (3)蓄積した超冷中性子 (UCN) を用いて中性子喪失率を測定する実験の準備を進め、J-PARC における初の UCN 貯蔵を達成した。これにより中性子喪失率の性能試験が行える体制が整った。これは計画以上の進展である。また、非鏡面反射を司る理論模型の検証実験に関して、 シミュレーション研究から BL05 で本研究を行うことが難しいとの結論を得た。一方で、 BL16 の冷中性子を用いた測定により非鏡面反射をよく記述する理論模型が発見できた。本項目の研究に関しては進展度のほうが上回っている。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに水素起因の中性子喪失効果を組み込んだシミュレーション研究を行う。また、BL16 の冷中性子を用いた測定で非鏡面反射をよく記述できる理論模型を発見できたため、この理論模型をシミュレーションに組み込む。このようにしてシミュレーションツールを洗練し、これを用いて測定セルの最適化を行う。また、シミュレーション研究を元にして UCN を用いた非鏡面反射測定の研究のフィジビリティーが高まるような仕様を探る。成膜試験に関しては、可能であればスプレーコーティングにより Deutratated-Polystyrene の成膜サンプルを製作してその性能評価を試す。同様に、NiMo をスパッタやイオン化蒸着で成膜を行い、本研究へと応用可能なレベルにまで反射率を向上できるように試みる。DLC に関してはより性能を向上することを目指す。このようにして製作したサンプルを用い、含有水素量や表面粗さの制御に関するスタディを進める。パラメータである表面/含有水素量は RBS/ERDA や SIMS を用い、表面粗さは AFM や光干渉計を用いて測定を行う。表面粗さの制御は、まずは滑らかな表面を持つサンプルの製作の達成を目標にする(これは DLC に関しては十分達成できている)。そのようにして用意した Deutratated-Polystyrene、DLC、NiMo を試験材とし、J-PARC MLF BL05 に設置した 98 L の SUS316 容器に蓄積した UCN の時間変化から中性子喪失率を決定する。非鏡面反射に関しては、BL16 の冷中性子を用いて測定を行う。ここまで述べてきた知見を用いて最も有望な技術を結集し、測定セルのプロトタイプを製作する。
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Remarks |
http://www.icepp.s.u-tokyo.ac.jp/yamashita/?page=neutron_edm http://phi.phys.nagoya-u.ac.jp/theme/CPV
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Research Products
(3 results)