2014 Fiscal Year Annual Research Report
光合成光捕集機構の量子力学計算による太陽系外惑星のバイオマーカー・モデルの構築
Project/Area Number |
14J01303
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小松 勇 筑波大学, 大学院数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | アストロバイオロジー / 太陽系外惑星 / バイオマーカー / 量子化学計算 / 輻射輸送計算 / アンテナ複合体 / 密度汎関数理論 / 光合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、地球上の光合成生物がある生息場所においてどの程度効率的に光を吸収するかを量子化学計算、輻射輸送計算を用いて評価した。特に、今後の太陽系外惑星の観測では低温のM型星の周りの惑星がターゲットになるので、長波長の光を多く含む環境における効率に焦点を当てる。クロロフィル(Chl)、バクテリオクロロフィル(BChl)などの光合成色素から始めて、これらの凝集体である光捕集複合体における吸収効率を評価した。 これらの光合成色素は短波長側から、B(ソーレー)帯、Qx帯、Qy帯の3つの主要な吸収帯を持つ。まずはこれらの吸収帯がどのように吸収効率に寄与しているか時間依存密度汎関数法によって色素毎に比較した。その結果、有効温度の高いF、G、K 型星周りの惑星大気上端(TOA)においてはB帯が4000Åブレーク(400nm前後での輻射スぺクトルの急な変化)の長波長側、短波長側のどちらに位置するかによって顕著に吸収効率が変わることがわかった。一方、M型星においてはB帯は吸収効率には寄与せず、代わりにQy帯が重要になる。 続いてBChl aからなる紅色細菌の光捕集複合体(LH2)の吸収効率を、色素同士が双極子-双極子相互作用をするモデルを用いて評価した。TOAだけでなく黒体輻射スペクトルも用いて、恒星の有効温度に依存してどのように吸収効率が変わるかを調べた。その結果、これらが最も効率的に吸収するのは、太陽の有効温度よりかなり高温側であることがわかった。 また、地球の場合、TOAと地表での吸収効率は大きくは変わらなかった。B帯はほぼ400nmにあるため、どちらの場合もB帯からの寄与は無視できなかった。さらに、異なる主星を持つ惑星大気の効果を取り入れた上で効率を比較するために、M型星、G型星(太陽)周りの惑星において輻射輸送計算を行った。M型星の場合は、大気の条件によって大きく吸収効率に差が出ることがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
系外惑星のバイオマーカーとして注目されている光合成を第一原理に基づいて調べた。特に, 系外惑星の光のスペクトルと光合成の光捕集機構との相関を, 色素の種類や配置を変えた量子化学計算によって調べ, 博士論文としてまとめた。この研究は, 世界的に見ても独創的であり, 得られた成果のいくつかは既に学術雑誌論文としても発表されている。また, 関係する学会や研究会においても, 積極的に成果発表を行い, 生命科学, 宇宙物理, 惑星科学の広い分野の研究者と研究交流をもった。今後,これまでの実績を基に,量子化学のスキルを活かすことで,計算宇宙生命科学のさらなる発展が期待できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの本研究ではある惑星における光合成生物の反射スペクトルへの示唆を与えた。ある惑星におけるこれらの光合成生物がある割合で地表を占めたときの検出可能性を議論することによって、今後の観測において1つの基準にするこができるであろう。そのためにさらに惑星大気の輻射輸送のコードをさらに拡張することによって、例えばM型星と同期しているハビタブルゾーン(液体の水が惑星表面に存在できる領域)内の惑星、連星周りの惑星など、様々な状況設定の惑星における輻射場を明らかにする必要がある。 まずはその前に、計算精度の評価を行うために、構築したLH2の双極子近似モデルと量子力学古典力学混合法(QM/MM法)による結果を比較することによって、LH2の吸収スペクトルの誤差を見積もり、算出された吸収効率の妥当性を確認しておく必要がある。QM/MM法では色素の周りの溶媒やタンパク質などとの相互作用をより高精度に評価できる。 また、水中など具体的に光合成生物が生息している場所における輻射スペクトルを用いて吸収効率を比較するべきである。 さらに、これまでは生物にとって有害なUV領域の光も吸収効率の中に含めていたが、波長域を考え合わせて定量的に評価する必要がある。 一方で、M型などの輻射環境においてどのような条件で高効率化が得られるかについても量子化学計算によって評価しておく。
|
Research Products
(6 results)