2015 Fiscal Year Annual Research Report
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14J01329
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤林 翔 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 元素合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
膨張速度が非常に速い物質中の元素合成過程についての研究を行った。これは、昨年度の極超新星(爆発のエネルギーが通常の超新星よりも一桁ほども大きな超新星)からのニュートリノ駆動風における元素合成過程についての研究から派生したものである。 極超新星のニュートリノ駆動風のように膨張速度が非常に速い物質の中では、アルファ粒子(ヘリウム原子核)と核子(陽子と中性子)が熱平衡を達成できずに元素合成過程が進む。その結果として、鉄よりも質量数が大きな原子核が合成される。私は、この過程がアルファ粒子と核子が熱平衡から外れた場合に達成される、重元素の準平衡組成(Alpha-constrained Quasi-statistical Equilibrium, αQSE)を用いて理解できる事を示し、この過程が実際の天体現象(極超新星)として起こりうることを示した。この結果は、中性子が過剰でなく、r過程が起こらない場合においても重元素合成が起こる可能性が有るため、非常に興味深い。また、この元素合成過程の結果合成されるのは、質量数90-130程度の陽子過剰核(モリブデン、ルテニウムからバリウムなど)である。これらの元素は、陽子過剰核の生成過程として現在有力なシナリオとされているγ過程では十分に作ることが出来ないと考えられている元素であるため、この元素合成過程はこれらの陽子過剰核の生成過程としても注目される。 この研究において準平衡(QSE)組成を求めるコードを開発した。これは非常に拡張性に富んでおり、異なる原子核の準平衡グループを指定することにより様々な天体現象における原子核の組成を作ることが出来ると考えられる。核反応ネットワーク計算による直接的な計算と、準平衡組成による解析を通じて、元素合成過程そのものについての理解をより深めることが出来る。 また、中性子星連星が合体した後のニュートリノによる質量放出についての研究についても遂行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在の研究は、連星中性子星合体の際にニュートリノによって加熱されて放出される物質を調べるというものである。この研究においては、ニュートリノと物質との相互作用を詳細に扱いながら、流体シミュレーションを行うことが必要である。 私は、弱い相互作用の理論にもとづいて、ニュートリノと物質との相互作用による流体の加熱率を計算し、それらを組み込んだ流体コードを開発した。 特に、ニュートリノと反ニュートリノの対消滅によって物質が加熱される効果は、世界でどのグループも行っておらず、初めての試みである。また、数値相対論を用いた連星中性子星合体シミュレーションを考慮した初期条件から計算を始めることも初めての試みである。 初期条件については、空間3次元で行われた連星中性子星合体のシミュレーションの結果を軸対称に平均化し、それを初期条件として軸対称2次元のシミュレーションを行う事が可能となった。空間3次元で長時間の計算を行うことは、莫大な計算リソースを必要とする。軸対称2次元でシミュレーションを行うことは、この計算コストの問題を解決するためにも有用である。以上を総括して、研究課題の進捗は順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
ニュートリノ-反ニュートリノの対消滅による加熱を考慮した、連星中性子星合体の後の系(重い中性子星とその周りを取り囲む降着円盤からなる系)の軸対称2次元計算の結果、放出される物質の物理的性質はこれまでの結果と定性的に大きく異なることが明らかになった。 放出される物質の速度は光速の約50%と非常に大きく、エントロピーはニュートリノ対消滅を考慮しない計算に於ける値の数倍に達することが明らかになった。これらの量はニュートリノ風の原子核組成を大きく変え、最終的にKilonovaに影響を与える可能性がある。よって、これらの量が核物質の状態方程式や、連星中性子星のパラメータ(質量など)にどのように依存するのか、系統的に調べることが今後必要であり、また行う予定である。 また、今回用いたニュートリノ対消滅加熱率は過小評価であることも明らかになった。今回用いたモーメント法によるニュートリノ輻射輸送の定式化と、より第一原理計算に近いボルツマン方程式を解いた結果のニュートリノ対消滅加熱率を比較した結果、今回用いた形式での加熱率は10倍ほど過小評価していることが明らかになった。これは、ニュートリノ-反ニュートリノの対消滅の加熱率をより詳細に検討することが必要であることを示しており、これを解決することが今後の研究の方向である。
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Research Products
(2 results)