2015 Fiscal Year Annual Research Report
次元交差領域における新規スピンチューブ金属錯体の創製とその物性探索
Project/Area Number |
14J01421
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
橋口 良太 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ハロゲン架橋遷移金属錯体 / ニッケル錯体 / 低次元物性 / 電子状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は擬1次元物質であるハロゲン架橋遷移金属錯体(MX-chain)を架橋配位子により連結することで次元拡張MX型錯体を合成し、その構造、電子状態及び物性を明らかにすることを目的とする。1本鎖のMX-chainを連結することで鎖間の相関という要素を導入した次元拡張MX型錯体は、多様な電子、スピン状態を取りうると考えられ、それに基づく新奇物性の発現が期待される。 本年度は環状配位子により連結されたニッケル二核錯体をハロゲン蒸気で酸化、架橋することでラダー型錯体の合成を試み、その結果2種類の新規MX型錯体の合成に成功した。1つはニッケル二核錯体がコの字型に折れ曲がり臭化物イオンで架橋された新規MX-chainである。このMX-chainについては臭素蒸気の拡散速度を調整することで結晶構造が異なる2種類の錯体の作り分けに成功しており、その電子状態や物性を評価、比較することで低次元物性の研究進展への大きな寄与が期待される。もう1つの新規MX型錯体は1本鎖MX-chainが架橋配位子により2次元シート状に連結されたMX型錯体であり、あみだくじ状の非常にユニークな構造であることが単結晶構造解析の結果明らかとなった。この2次元MXシートはニッケルを用いた次元拡張MX型錯体として初めての例であるが、さらに次元拡張MX型錯体としてもシート状の形状はこれまで合成例がない。また構造解析、光学スペクトル測定から、その電子状態はニッケルを用いたMX型錯体としては非常に珍しい2価4価の混合原子価状態であることが示唆された。その磁性、電気伝導性等の物性評価を行い、シート状に連結された1本鎖MX-chainの鎖間の相関等が物性に及ぼす影響を明らかにすることで、2次元物質の研究に大きく寄与することができると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度においてはラダー型、チューブ型錯体の合成自体は成功していないものの、その合成過程においてニッケルを用いた2種類の新規MX型錯体の合成に成功した。一つは鋳型として用いたニッケル二核錯体がコの字型に折れ曲がり、ニッケルイオンを臭化物イオンが架橋したユニークな形状の新規MX-chainである。この錯体については臭素蒸気の拡散速度を調整することで2種類の結晶構造を持つMX-chainの作り分けと単結晶の精製に成功しており、単結晶構造解析によりそれぞれの結晶構造を明らかにした。もう1種類は1本鎖MX-chainが架橋配位子により2次元シート状に連結されたMX型錯体である。この錯体はニッケルを用いた次元拡張MX型錯体として初めての例であるだけでなく、次元拡張MX型錯体としてもシート状の形状は初めての合成例であり、当初の目的であったラダー型、チューブ型錯体以上に興味深い錯体である。この錯体についても単結晶の精製に成功しており、構造解析によりその結晶構造を明らかにしている。さらに結晶構造解析、光学スペクトル測定の結果から、その電子状態はニッケルを用いたMX型錯体としては非常に珍しい2価4価混合原子価状態であることが示唆されており、その点においてもこの錯体は通常のMX型錯体よりも興味がもたれるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度はまず、隣接するニッケルイオンが2つずつ連結された2種類の新規MX-chainについて、それらの構造、電子状態及び物性の評価、比較をまとめて論文を執筆することを目標とする。これに加えて、昨年度得られた2次元シート状MX型錯体(2次元MXシート)についてSQUID、ESRを用いた磁性の評価を行う。またXPSを用いたニッケルイオンの価数の評価を行い、その電子状態についての知見を深める。さらにシート間距離が縮むことによる電子状態、物性への影響を評価するため、高圧下における粉末X線回折測定、光学スペクトル測定、電気伝導性の測定等を行う。この他、現在得られている2次元MXシートは架橋ハロゲンが臭素、塩素の2種類であるが、ヨウ素架橋のMXシートについても合成を試み、架橋ハロゲンの違いによる電子状態、物性の系統的評価を行うことを予定している。この2次元MXシートについては現在、理論物理学の研究家とも共同研究を行っており、これらの結果をまとめて第一著者として論文を執筆し、また国内、国際学会において発表を行う予定である。
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Research Products
(5 results)