2015 Fiscal Year Annual Research Report
新出史料の分析を通じた黎朝前期ベトナムと明朝中国との関係に関する研究
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14J01496
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
吉川 和希 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 中越間の使節往還 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は論説として「十五世紀後半の中越間における使節往還―一四七五年ベトナム使節の雲南到来とその背景―」を『東洋学報』第97巻第4号(2016年3月)に発表した。本稿は、民間における周辺国との私的な交通や交易が禁止された明朝の「朝貢一元体制」における公的な使節の往還の意義を考察したものである。具体的には、中越間の使節往来に関わる各アクターの主体性を多面的に描写し、私貨を携帯し中国国内での交易活動を企図するベトナム使節、明使の派遣を通して黎朝との交渉を通じ私利をはかる雲南鎮守太監、口実を設けてはベトナム使節から物品を略取する龍州・憑祥の土官という、各アクターが各々の方策で利益獲得を目指す構図を明らかにし、明朝の「朝貢一元体制」のもとでは公的な使節往来が重要な営利の機会であったことを指摘した。また福岡大学東洋史学研究会(福岡, 福岡大学, 2015年7月18日)でおこなった発表で本論説の方向性を発展させ、15世紀後半における中越間の使節往来とその中での広西土官の主体性や役割を論じた。 第113回史学会大会東洋史部会(東京, 東京大学, 2015年11月15日)では「17世紀後半における北部ベトナムへの中国商人の進出―諒山地域を中心に―」と題する発表をおこなった。本報告では、ベトナムの諒山地域に焦点を当てて17世紀後半の中国広西~北部ベトナム間の内陸交易を考察し、17世紀後半は広西から北部ベトナムへ河川交通を通じて広東商人など中国商人の活動が拡大していく時期であること、その結果として諒山地域に華人の会館が設立され長期滞在する中国商人がいたこと、諒山地域に市場町が形成されたことなどを指摘した。今後は考察時期を近世後期(17世紀~19世紀前半)に広げつつ、当該期の北部ベトナムから南中国にかけてのヒト・モノの動きをより立体的に捉え、その中に諒山を位置付けていく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の如く、本年度は十五世紀後半の中越間における使節往還につき、これまでの研究成果を論説として学術雑誌に発表し、また本論説の方向性をさらに発展させる研究発表をおこなうこともできた。これによって15世紀後半における中越間の使節往還を東・東南アジア国際関係史の文脈に位置付けていく方向性がおぼろげながらも提示され、博士論文の執筆、および更なる研究の進展につながる視野が開けたと考える。 また本年度は、ベトナムの諒山地域を取り上げて17世紀後半の中国広西~北部ベトナム間の内陸交易について学会発表をおこなうこともできた。17世紀後半における諒山地域への中国商人の進出という現象が、近世後期における東・東南アジアの国際貿易の中でどのように位置付けられるかの展望を得られたことは、今後の論説としての成果発表につながると考える。 また本年度は、ベトナム学開発科学院を受け入れ機関として、2015年7月~2016年2月にかけてベトナムのハノイで在外研究に従事し、2015年10月12~15日にランソン省で、2015年10月21~23日にバッカン省でそれぞれ史料収集のための実地調査をおこない、ランソン省では17世紀後半~18世紀の金石史料3点、および在地首長の一族の家譜3点、またバッカン省では18世紀前半の金石史料2点を収集することができた。これら貴重な現地史料群を収集できたことも、今後の研究活動の進展を約束するものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
まず中越間における使節往還について、中越関係史の通時代的な考察および他国の事例の参照を通し、15世紀後半の事象を東・東南アジア国際関係史の文脈に位置付けていく必要がある。具体的には、前後の時代の中越間の使節往還について考察を加え、15世紀後半において広西の土官によるベトナム使節に対する物品略取事件が多発した背景を明らかにする必要がある。この問題については、上述福岡大学東洋史学研究会の発表において若干の展望を示したものの、十分に実証することができなかったため、来年度においてさらなる考察を加えたい。 また17世紀後半の中国広西~北部ベトナム間の内陸交易については、当該期の北部ベトナムから南中国にかけてのヒト・モノの動きをより立体的に捉え、その中に諒山を位置付けていく必要がある。そこで考察時期を近世後期(17世紀~19世紀前半)に広げることにより、いまだ本格的に手を付けられていない阮朝期(1802~1945)の行政文書群を活用し、当該期北部ベトナムの対外貿易を解明していきたいと考えている。また、言うまでもなく現地史料の蒐集は必要であり、特に2015年度のベトナム・ランソン省における史料調査において同省の博物館が大量の古資料を所蔵していることが明らかとなった。2016年度には、本博物館でさらなる史料調査をおこない、これらの史料群の全容を把握していきたい。
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Research Products
(6 results)