2014 Fiscal Year Annual Research Report
情報の読み込みに最適なポルフィリン単分子磁石-グラフェン複合材料の開発
Project/Area Number |
14J01519
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
猪瀬 朋子 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 単分子磁石 / 走査型トンネル顕微鏡 / ポルフィリン |
Outline of Annual Research Achievements |
単分子磁石は一分子で磁石としての性質を示すため、将来のメモリー素子や量子コンピューターへの応用が期待されている。近年では炭素材料-単分子磁石複合材料でメモリー機能の発現等が報告されており、単分子磁石のデバイス化への期待が高まっている。一方、炭素材料上での単分子磁石の詳細な分子配列の考察についてはまだほとんどなされておらず、炭素材料上での単分子磁石の配列構造を明らかにすることは、より高性能なデバイス化を実現するためにも解決すべき課題の一つである。 本研究室ではこれまで、プロトンの脱着による単分子磁石性のスイッチングが可能な、ユニークな機能を有するポルフィリンダブルデッカー型錯体に着目し、研究を進めて来た。本年度は、炭素材料上でのポルフィリンダブルデッカー型単分子磁石の配列構造を明らかにするため、まず平面性の高いオクタエチルポルフィリンを用いてダブルデッカー型錯体を合成した。このオクタエチルポルフィリン-Tb<SUP>III</SUP>ダブルデッカー型錯体(Tb(oep)<SUB>2</SUB>)について、プロトン体、アニオン体、ラジカル体という3種類の電子状態の作り分けを行うことにより、単分子磁石性のスイッチングが可能であることを、交流磁化率測定の結果から明らかにしている。さらに、それぞれの電子状態のダブルデッカー型錯体について、高配向性グラファイト(HOPG)上に溶液を滴下し、その配列構造を、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて観察したところ、いずれの電子状態でもほぼ同じ格子定数を有する規則的な分子配列を示すことが明らかとなった。以上の結果についてのより詳細な磁性測定、STM観察の議論については論文に投稿し、すでに受理されている。また、以上の結果は、国内外の学会発表の際にも評価されている。さらに、最近では単分子磁石のランダムな配列構造の作成にも、テンプレート分子を用いることで成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、表面上のダブルデッカー型単分子磁石の配列構造等に着目し、主にSTMを用いて研究を進めてきた。本年度は、平面性の高いポルフィリンを用いたダブルデッカー型錯体の合成と、合成した分子のSTM観察から明らかとなった、表面上でポルフィリンダブルデッカー型錯体が形成する配列構造についての実験結果について、論文に投稿し、すでに受理されている (T. Inose et al. Chem. Eur. J., 20, 11362-11369 (2014))。さらに、国内外の学会においても、国際学会でのポスター賞や国内学会での講演奨励賞という形で研究内容は評価されている。論文受理後も、表面上ポルフィリンダブルデッカー型単分子磁石の研究は継続しており、現在論文に必要なデータを集めながら、新たな論文をまとめているところである。来年度も論文を投稿しながらさらなる実験の継続と新たな結果が期待できる状況であり、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、平面性の高いポルフィリンを用いてダブルデッカー型単分子磁石を合成することにより、表面上で規則正しい分子配列を有する分子薄膜を形成することが可能であるということを明らかにしている。今後は、この表面上に配列したダブルデッカー型単分子磁石について、STMを用いることで単一分子レベルでの分子操作を試みる予定である。ポルフィリンダブルデッカー型単分子磁石は、プロトン付加体とラジカル体を作り分けることにより単分子磁石性のスイッチングが可能である。一方で、これまでは、この電子状態は、溶液状態でのみ変換可能であり、ポルフィリンダブルデッカー型単分子磁石の応用に向けて、固体状態での電子状態の変換を実現する事が、大きな課題の一つとして挙げられていた。 先行研究において、フタロシアニンダブルデッカー型錯体の電子状態を、STMのパルスを用いることにより、アニオン体からラジカル体へと金表面上単一分子レベルで変換することに成功したという報告がすでになされている。今後本研究では、オクタエチルポルフィリンダブルデッカー型錯体のプロトン付加体を金基板上に配列させ、超高真空中で、この分子のプロトン体とラジカル体という電子状態の変換を、単一分子レベルで、可逆に行うことができないか、試みる予定である。これにより、固体状態、単一分子レベルでの磁性スイッチングの実現を目指す。さらに、超高真空中でのSTM測定においては、ダブルデッカー型錯体のフェルミ準位近傍の電子状態について詳細な情報が得る事が可能である。この利点を利用し、電子状態の変換前後での分子の電子状態の変化等についても、詳細な考察を行う予定である。
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Research Products
(7 results)