2014 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀初頭の英国のファッションにおけるジャポニスム:キモノブームと日本女性表象
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14J01602
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
サワシュ 晃子 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ジャポニスム / ファッション / 比較文学 / デザイン史 / 日英関係史 / 国際研究者交流 / イギリス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、キモノがモダンの象徴として、モダニズム的な新たな日本イメージの成立に寄与した可能性を明らかにするため、大衆小説や新聞・雑誌の戯画などにおけるキモノとキモノ姿の女性の描かれ方を分析する。 1、British Libraryにてキモノが登場する英国小説を収集し、キモノブーム以前と以後の作品における、キモノ及びキモノ姿の女性の描かれ方を比較した。キモノブーム以後の英国では、1920年代から30年代にかけてロウワーミドルクラス向けの雑誌や新聞などに掲載された三文小説に、キモノが小道具として頻繁に登場することが明らかになった。その中では、キモノの着用者は西洋人女性であり、キモノは、一方では富と階級の象徴として、また一方では、モダンガールの小道具として用いられたことが新たにわかった。これは、19世紀末よりジャポニスム小説ではキモノ姿の日本人女性が描かれてきたが、彼女たちは声高に主張しない女性であり、東洋の象徴として描かれたとする先行研究を更新するものである。 2、Victoria & Albert Museum別館及びWestminster City Archivesにて20世紀初頭の日本物演劇の舞台衣裳に関する資料収集を行った。19世紀末から流行した日本物演劇は、20世紀初頭の英国ではすでに一ジャンルに発展した。当時、演劇がファッションショーの役割を果たしていたことから、舞台衣裳は最先端のファッションとして捉えられており、日本物演劇の舞台衣裳であるキモノも、ファッショナブルなキモノイメージの成立に寄与した可能性が明らかになった。さらに、先行研究では見落とされていた、舞台衣裳と上流階級の日常着のデザインで成功した20世紀初頭の英国人デザイナーによるキモノ風ファッションとの関連も浮かび上がってきた。 以上について、文学、ファッション、工芸、デザインなど他分野にわたる発表の機会をもち、国内外に成果を広く共有することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、二年間の具体的な調査計画として、1、英国内の美術館・博物館での現物悉皆調査2、同時代の英国小説における着物姿の日本人女性と、輸出用キモノを着た西洋人女性描写の調査3、同時代の英国の雑誌に掲載された戯画における着物姿の女性イメージの調査4、英国で上演された日本物演劇の衣裳調査の4つを挙げている。初年度の成果としては、2と4の調査を終え、2については口頭発表を経て論文として執筆済みであり、4についても執筆中である。初年度と次年度の調査計画については、調査先でのスケジュールの都合上、多少の入れ替えを行ったが、初年度にて計画の半分を終えることができたことから、おおむね順調に進展していると言えるだろう。 また、英国のジャポニスムに関して、当該分野の若手の中心的メンバーとの共同研究体制を確立し、今後の研究基盤作りを行うことも目標に掲げているが、彼らとは初年度を通じて頻繁に情報交換の場をもった。さらに、「シンポジウムつたえる力―京都の伝統工芸―」の若手研究発表において、互いの研究成果を共同発信する機会も得たことで、当初の計画であったジャポニスム学会での若手シンポジウムに先立って有意義な成果共有を行うことができた。一方で、国際共同セミナーBridging Britain and the Far Eastでの発表を通して、ファッション研究の分野を国際的にリードする研究者たちと本研究の成果の一部を共有できたことに関しては、当初の研究計画での予定以上の恵まれた機会だったと言えるだろう。 本研究は、モダンの象徴としてのキモノイメージの事例を発掘し、キモノがモダニズム的な新たな日本イメージの成立に寄与したと証明することを最終的な目標としているが、初年度の小説の調査ですでにその事例を発見したことから、初年度の成果としては十分な進展が得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
調査に関しては、初年度と次年度の計画に多少の入れ替えがあり、小説と日本物演劇に関する調査をすでに初年度に終えている。そのため、次年度には、初年度に予定していた英国の美術館・博物館での現物調査と国内での挿絵・戯画の調査を中心に行う。一方で、初年度は口頭発表を中心に研究成果を発信してきたが、次年度にはそれら口頭発表の内容を元にして論文にまとめ、学会誌に投稿することに力を注ぎたい。 具体的には、1、ManchesterとScotlandの所蔵先にて、未調査の輸出用キモノ・キモノ風衣裳の悉皆調査2、国内の所蔵先にて、PunchとIllustrated London Newsの挿絵におけるキモノとキモノ姿の女性イメージの収集・分析と論文執筆、を行う。 論文投稿に関しては、 昨年の日本比較文学会での発表を論文にまとめ、ジャポニスム学会誌及び比較文学会誌への投稿を予定している。また、日本物演劇と英国人デザイナーの調査についても論文にまとめ、デザイン史学研究会誌及び学内紀要への投稿を予定している。年度末には、初年度に発表を行った国際共同セミナーにてオーガナイザーより慫慂された、英国の学術研究誌Fashion Theoryへの投稿を行う。 また、隣接分野の若手研究者と共同で、二年間の研究成果発表の場を設ける。これまで英国での実見調査を共同で行ってきた清水三年坂美術館特別研究員の松原史氏と、日本女子大学助教の粂和沙氏とともに、英国のジャポニスムをめぐる共同研究を組織する。この共同研究メンバーで、平成28年度にジャポニスム学会にて若手シンポジウムを行う予定であり、初年度に発表を行った国際共同セミナーのオーガナイザーである、英国のノーザンブリア大学のElizabeth Kramer氏を招聘し、より国際的な成果発表の場とする計画である。さらに、博士論文とこれまでの研究成果とを総合し、書籍化の準備を行う。
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Research Products
(5 results)