2014 Fiscal Year Annual Research Report
線虫C. elegansを用いた神経回路における忘却促進の分子メカニズム
Project/Area Number |
14J01655
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
北園 智弘 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 記憶 / 忘却 / 線虫 / 遺伝学 / 変異体 / 行動可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では記憶の忘却の分子機構を明らかにするために、線虫C. elegansにおける嗅覚順応をモデルとして解析を進めている。先行研究において、p38/MAPK経路に似たシグナル伝達経路(TIR-1/JNK-1経路)が嗅覚順応の忘却を促進することが明らかになっている(Inoue, A. et al., 2013)。これを受けて、本研究では、忘却を促進する分子機構において、TIR-1/JNK-1経路の下流の分子機構を明らかにするために、tir-1機能獲得型変異体のサプレッサー変異体を探索し、これを解析している。 本年度は、サプレッサー変異体の原因遺伝子を同定し、膜タンパク質と受容体型チロシンキナーゼがTIR-1/JNK-1経路の下流で働いていることを明らかにした。このうち、膜タンパク質は複数種の嗅覚順応の忘却と、餌シグナルによる忘却の制御にも関与していることを明らかにした。また、野生型の膜タンパク質を11対の神経細胞において発現させることによって、表現型を回復できることを明らかにした。また、受容体チロシンキナーゼのリガンドも、嗅覚順応の記憶の忘却の制御に関与していることも明らかにした。 これらの因子はどちらも多くの生物で保存されており、また、C. elegans以外の生物種においても、神経可塑性に関与していることが最近の研究で明らかになってきている。このことは、C. elegansにおける忘却は、他の種でも保存されている共通の分子メカニズムによって制御されている可能性があることを示唆している。そのため、本研究は高等生物における記憶の制御メカニズムの理解のための基盤になりうるものであると言える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最初の目標は、スクリーニングにより得られたtir-1機能獲得型変異体のサプレッサー変異体について、SNPマッピングと全ゲノムシークエンシングを組み合わせることによって、原因遺伝子を明らかにすることである。本年度までに、全ゲノムシークエンシングを行なった20株のサプレッサー変異体のうち、2株について、原因遺伝子を同定することに成功した。さらに、これらの2系統以外にも、3系統のサプレッサー変異体について同様の解析を進めており、いずれも原因遺伝子の候補を数十個程度にまで絞れている。 本研究の最終的な目標は、同定した新規因子の上下流の因子や、この因子が働く神経細胞を明らかにすることによって、TIR-1/JNK-1経路の下流で働くシグナル伝達経路や神経回路を解明することである。これまでの分子遺伝学的な解析から、原因遺伝子が機能している神経細胞を絞ることに成功しているほか、共同して働く分子の同定などに成功している。これらの結果から、TIR-1/JNK-1経路の下流の制御機構が分子レベル・神経レベルの両レベルで明らかになりつつある。 さらに、サプレッサー変異体の表現型の解析から、異なる行動可塑性、餌シグナルによる忘却の制御に対する解析から、嗅覚順応の制御機構が他の種類の忘却の制御機構と少なくとも一部は重複しているということを示唆する結果を得ている。これらのことは、本研究を推進することによって、多くの記憶の制御機構の原理を明らかにする手がかりを得られることが期待されることを示している。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.本年度までに、原因遺伝子の候補をそれぞれ十数個程度にまで絞った3系統のサプレッサー変異体について、SNPマッピングと行動実験を組み合わせることによって、原因遺伝子を同定する。また、これら以外の原因遺伝子未同定のサプレッサー変異体株についても同様の手法で原因遺伝子の同定を進める。 2.上述の変異体の解析によって明らかになった新規因子について、細胞特異的表現型回復実験を行うことにより、それぞれがどの神経細胞で働いているのかを明らかにする。また、すでに同定した因子や新たに同定した因子について、それぞれの変異体のいくつかの匂い物質に対する嗅覚順応の忘却がどのように変化しているかを調べることで、それぞれの因子が働く順番を推定する。また、新たに同定した因子について、既知の関連因子が報告されていないかを調べることで、TIR-1/JNK-1経路の下流でシグナル伝達経路の全容を明らかにする。 3.上述の解析によって明らかになった新規因子が働く神経細胞について、カルシウムイメージングを行う。学習前、学習直後、学習後の忘却の過程の3段階での神経活動を可視化することにより、それぞれの神経細胞が忘却の過程における、どの段階でどのような働きをしているのかを調べ、忘却を制御する神経回路の全容を推定する。また、新規因子が働く神経細胞について、学習と忘却の過程の様々なタイミングにおいて、人為的に活動を抑制することにより、それぞれの神経細胞が学習と忘却の過程のどこで働いているかを調べる。当初の予定では光感受性チャネル・ポンプを用いる予定であったが、多数の個体に同時に光照射を行って活性を制御することは困難であったため、代わりにヒスタミン作動性Cl-チャネルを含む培地で飼育する方法を用いて、この実験を試みる。
|
Research Products
(2 results)