2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J01720
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
堀 清鷹 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | シダ植物無配生殖種 / 網状進化 / 雑種起源 / 有性生殖種 / イタチシダ / ベニシダ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、まずイタチシダ類の系統解析に有効な核マーカーを新たに開発することを主な目標とした。その理由は、このシダ植物群で有効な核マーカーはPgiC遺伝子のみで不十分なためである。イワイタチシダの幼胞子体からRNA抽出を行い、次世代シーケンサーを用いて塩基配列を決定した。次に、シロイヌナズナの遺伝子の塩基配列のデータベースからアイソザイム関連遺伝子の塩基配列を探索し、イワイタチシダと相同性の高い約70の低コピー核遺伝子を選択することができた。その他、シダ植物のRNA塩基配列のデータベースも活用し、系統解析が可能である程度に十分な変異をもち、かつPCR-SSCP法に適した長さのフラグメントが得られるPCR領域を絞り込んだ。最終的に新たに4つの核遺伝子のPCR増幅用プライマーを開発することができた。 次にイタチシダ類各種について5マーカーを用いたPCR-SSCP法と系統解析を行いほぼ完了した。これらの5遺伝子座ではいずれも複数の2倍体有性生殖種に由来する遺伝子を同じ種の組みあわせになる形で持っており、組み換えによる遺伝子型の変化はほとんど起きていないことが示唆された。また、ベニシダ類についても2種類の核マーカーのデータをほぼ揃えることができた。 次に、無配生殖種の起源に関わったと考えられる有性生殖型の探索を行った。牧野標本館と国立科学博物館、台湾森林管理局、中国科学院植物標本庫(北京)の標本庫に収蔵されたイタチシダ類・ベニシダ類に近縁と考えられる種の標本を網羅的に調査した。その結果、網状進化を理解するうえで重要と考えられる有性生殖種が台湾・中国に複数種分布していることが明らかになった。 最後に核PgiC遺伝子を用いて日本産オシダ属の倍数体・無配生殖種ほぼ全種の遺伝子型を調べた。その結果ほとんどの種が雑種起源であること、さらに多数の未確認2倍体有性生殖種が存在することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、まず新たな核遺伝子のPCR用プライマーを最低2~3種類設計することを目標としていた。そのため、イワイタチシダを材料として、次世代シーケンサーによる解析を行い、3万コンティグのRNA塩基配列データを得ることができた。これらのうち実際にシロイヌナズナの遺伝子の塩基配列に類似したものは非常に多数あったものの、ほとんどが重複した遺伝子だったことや、PCR増幅がされなかった、繰り返し配列が多すぎた、変異に乏しく系統解析には不向きだったことにより除外しなければならなかった。最終的に設計できたPCR用プライマーは4つの核遺伝子座に対してのものであった。費用対効果はそれほどよくなかったが、目標を達成することはできた。 2つ目の計画は、イタチシダ類無配生殖種の遺伝子型を複数の遺伝子座について調べることであった。これについては、5種類の核低コピー遺伝子のPCR-SSCP法と系統解析をほぼ完了することができた。また、関連して無配生殖種の多いとされているベニシダ類についても、2種類の遺伝子座のジェノタイピングをほぼ完了した。異なるクレードごとの塩基配列はSSCP法で容易に分離することができたが、同クレード内の一部については分離できなかった。ただし、各クレードは無配生殖種のもととなった1つの有性生殖種に由来するものであり、どの有性生殖種同士で交雑が起きたかを推定するには十分なデータが得られたといえる。 また、標本庫に収蔵されたシダ植物標本の調査から、イタチシダ類・ベニシダ類において、これまで知られていなかった有性生殖種・有性生殖型を日本・台湾・中国で新たに複数発見することができた。 全体的に見て、当初の計画以上の進展があったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
SSCP法で分離できなかった一部の塩基配列は、条件を再検討するか、クローニングによって決定する予定である。また、ベニシダ類については最低もう1種類の核遺伝子座の解析を進める予定である。 シダ植物の無配生殖種のほとんどは減数分裂によって胞子を形成する。通常、減数分裂は組み換えを伴う。さらに、シダ植物の無配生殖種は交雑サイクルによって複数回交雑を起こしている可能性が高い。そのため、シダ植物の無配生殖種は遺伝子座によって異なる遺伝子の組み合わせになっていてもおかしくはない。ところが、5種類の核遺伝子座を用いたイタチシダ類の解析ではいずれも類似した2倍体有性生殖種由来の遺伝子の組み合わせを示した。このことは、交雑サイクルが少数回のみ起きているか、複数回起きたとしても遺伝子型がランダムには組み換わらないことを示唆している。シダの無配生殖種における親と子孫の遺伝子型の差異に関する研究は少ない。そこで、イタチシダ類の無配生殖種を用いて、1個体の親から生じた200~300個体の前葉体の遺伝子型を解析し、組み換えの有無とその比率を調べる予定である。 また、イタチシダ類の遺伝子型と形態の多様性はほぼ把握することができたので、種レベルの分類についての見解をまとめる予定である。この群は学名・和名に関して非常に混乱しており、必要に応じてタイプ標本の閲覧を行いつつ、モノグラフの作成準備を進める予定である。 また、新たに発見した無配生殖種の起源となったと考えられる有性生殖種のうち、日本と台湾に生育するものについては最低限の材料を集めることができたものの、中国産の種についてはその目途が立っていない。現地の研究者と協力しつつ、入手するための準備を進めていく予定である。
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Research Products
(5 results)