2015 Fiscal Year Annual Research Report
発声経験依存的エピゲノム制御を介した学習臨界期形成機構の解明
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14J01737
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
早瀬 晋 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 学習臨界期 / 発声学習 / ソングバード / 神経可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
発声学習における学習臨界期を制御する脳内神経メカニズムの理解を目的とし、「脳内特定部位における発声経験依存的な神経可塑性に関わる遺伝子群の発現調節が学習臨界期間の制御に影響を与える」とする仮説をもとに、発達段階・発声経験の異なる鳴禽類ソングバードを対象とし研究を進めている。学習臨界期中の発声行動を阻害されて育った成鳥個体は、成鳥になっても可塑性のある発声パターンを生成する。昨年度の研究ではソングバード脳内の発声行動生成に特化した神経核RAにおいて、神経可塑性に関わる遺伝子Arcが発声学習臨界期特異的に発現誘導され、発声行動経験の蓄積によって発現誘導率が低下する事を明らかにした。 神経核RAにおける神経可塑性に関わる遺伝子群の発現誘導が抑制されることで、発声パターンを生成する神経回路が固定化されると考え、ゴルジ染色を用いて発声行動経験に伴うRA投射ニューロン樹状突起の形態変化を観察した。結果、発声行動を阻害された成鳥個体のスパイン密度は、学習臨界期中の幼鳥に近いパターンを維持していた。この結果は、発声経験に依存して神経細胞の形態を変化・維持するための、神経可塑性に関わる多様な遺伝子の発現制御を示唆する。これら遺伝子群の存在を明らかにするため、日齢・発声行動経験・直前の発声行動の有無に着目してサンプリングした15個体から神経核RA, HVCの2脳領域を切り出し、次世代シークエンスによる転写産物解析を行った。その結果、Arcと同様に発声行動経験依存的かつRA特異的に発現制御される遺伝子が126個見つかった。また、それらが発現可能な状態に維持されている長期囀り阻害個体は、本来ならば学習臨界期が終了している日齢であるにもかかわらず発声パターンを鋳型となる手本に似せることができた。つまり発声学習臨界期は発声行動経験が無ければ遅延し、その学習能力は維持されることを初めて示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
次世代シークエンスの解析について国立遺伝学研究所のMaserシステムを用いることで予定よりも効率良く成果を上げられた。また、脳内遺伝子発現と発声行動表現系とのギャップを埋めるため、ゴルジ染色を用いた細胞形態観察を行った。その結果、これまで見つかってきたArc遺伝子などの発現動態変化、脳内発声回路における神経細胞形態の変化、発声行動表現系の固定化はすべて発声行動経験の蓄積に伴う現象であった。また当初長期囀り阻害された成鳥個体は発声行動に可塑性は残しているが発声学習能力は低いと考えていたが、通常の幼鳥個体と同様の十分な発声学習能力を有していることが確認された。 当初予定していた1細胞レベルのDNAメチル化抗体を用いた免疫沈降実験であるが、逆行性色素を用いた1細胞レベルの細胞回収には成功したものの、レーザーによるDNA損傷の問題からDNAの収量に難があり、やむなく神経核RA全体からのDNA回収による実験を行った。現在次世代シークエンスを用いたエピゲノム解析を進めているが、発声学習限定的、発声経験依存的に発現誘導率が変化する遺伝子群の転写開始地点周辺において今のところ有意な違いは見つかっていない。
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Strategy for Future Research Activity |
長期囀り阻害して成鳥になった個体、またその後発声学習を行い歌が固定化した個体などを含め、さらにゴルジ染色の個体数を増やしスパイン密度のカウント作業を進める。また、発声経験の蓄積によって発現誘導率が変化する遺伝子群の脳内発現パターンをin-situ hybridizationで確認すると共に、季節性で発声学習臨界期を繰り返すカナリアの脳を用いて同様の遺伝子発現動態の存在を明らかにし、種を越えた発声学習臨界期制御の理解を目指す。 現在発声行動経験の蓄積と性ホルモンとの関連を示唆するデータが蓄積しているため、引き続きELISA法を用いて発声行動と血中・脳内性ホルモン制御の関係を調べていく。
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Research Products
(1 results)