2015 Fiscal Year Annual Research Report
福島原子力発電所事故由来のホットパーティクルによる事故状況の解明
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14J01748
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
張 子見 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | セシウムボール / ストロンチウム90 / アルカリ溶融 / チェレンコフ光測定 / Sr-90/Cs-137放射能比 |
Outline of Annual Research Achievements |
福島第一原子力発電所の事故により環境中に放出された放射性物質のなかには、水や酸に溶けない組成のものがある。初めに気象研究所のグループによって発見されたものは「セシウムボール」と名付けられている。私は博士課程の三年間で環境中からセシウムボールを採取し、様々な分析を行い、どの原子炉から放出されたのか、どのタイミングで放出されたのか、そしてセシウムボールがどのように生成されたのかといった疑問について研究を行っていくことにした。 我々は今年度に、昨年度にサンプリングした福島県浪江町の土壌からセシウムボールを摘出することに成功した。セシウムを豊富に含む部位の大きさは、およそ2マイクロメートルであった。元素マッピングを行ったところ、セシウム部位の下部にステンレスとケイ素繊維があることが分かった。ステンレスは圧力容器や格納容器の構成材料であり、ケイ素繊維は格納容器に豊富に含まれる断熱材の寄与であることが推測できる。今回発見されたものは、炉内の構成物の塊の一部にCsを豊富に含むという点で、特異的である。 セシウムボールに含まれるSr-90の測定も行った。セシウムボールは、メインの組成がケイ酸であるため、塩酸や硝酸では溶液化できない。そこで私はアルカリ溶融法を用いて、セシウムボールを溶液化した。従来から用いている一連の化学操作によりSr-90を単離し、液体シンチレーションカウンターよるチェレンコフ光測定でSr-90の放射能を定量した。その結果、一粒あたり3000 BqのCs-137を含むセシウムボールのSr-90の放射能は2.3 Bqであった。Sr-90/Cs-137放射能比は0.0008となり、現在予測されている一号炉から放出された放射性物質のSr-90/Cs-137放射能比0.01に比べて二桁ほど低い値となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
二年目の計画は、セシウムボールを取り出し、それについて非破壊分析を行うといったものであった。実験に必要な電子顕微鏡といった設備が、他大学のものを使う予定でいたのが、本学で配備できたこともあって、計画した以上に早く、セシウムボールに関する非破壊分析を行うことができた。ついてにセシウムボールを最初に発見した気象研究所のグループの電子顕微鏡も使用し、結果についてクロスチェックも行った。 以上の計画は達成されたうえ、来年度に予定されていた破壊分析と予定以上の成果が得られている。筑波大学の研究グループからセシウムボール試料を譲り受け、Sr-90分析に実績がある本研究室で、セシウムボールを破壊分析して、Sr-90を化学分離し、チェレンコフ光測定により定量した。得られた結果は、予想されていた値よりも二桁程度低いものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
大阪大学ではセシウムボールに関して、環境試料からの取出し、非破壊分析による元素・放射能分析、破壊分析による放射能分析を行う実験環境が整った。最後の年では、分析試料を増やしてセシウムボールについて統計的に信頼のある値を求める。そして得られた結果をまとめて、論文として発表し、特別研究員の研究課題を達成する予定である。
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