2014 Fiscal Year Annual Research Report
ガラス系とジャミング系の「動的不均一性」の統一的理解に向けたシミュレーション研究
Project/Area Number |
14J01878
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
尾澤 岬 筑波大学, 大学院数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | ガラス転移 / ジャミング転移 / 動的不均一性 / 理想ガラス転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は, ガラス・ジャミング系が示す動的不均一性をコンピュータシミュレーションを用いて理解することである。動的不均一性とは, 粒子の「よく動ける領域」と, 「ほとんど動けない領域」の時空間的なパターンが現れる現象である。この時空間的なパターンの特徴的な長さスケールは, 低温または高密度になるに従って劇的に増大することが知られている。このことは, ガラス・ジャミング系においてもある種の臨界現象が存在することを示唆する。本年度は, ガラス系の臨界現象を引き起こす臨界点だと予想されている理想ガラス転移温度の抽出をシミュレーションを用いて試みた。ガラス転移の有力理論であると言われているランダム一次転移理論では, 理想ガラス転移温度の臨界性に基づいてガラス系のスローダイナミクスや動的不均一性を説明する。しかしながら, 緩和時間が推定される理想ガラス転移温度に向かって劇的に増大するため, 通常の実験やシミュレーションによって臨界点の存在を検証することは極めて困難である。そのため, これまでの実験やシミュレーションによる理想ガラス転移の研究は, 高温からのエントロピーの外挿やフィッティングに依拠していた。近年, この困難を克服するため, ランダムピンニングという方法がランダム一次転移理論の枠組みの中で提唱された。ランダムピンニングとは, 過冷却液体の配置からランダムに粒子を選び, 先に止めてしまう操作である。そして, 止められた粒子の割合cを新たなコントロールパラメータとしてガラス転移を制御する。cを増大させると, 理想ガラス転移温度が実験やシミュレーションで到達可能な温度まで上昇することが理論的に予想された。そこで本研究では, ランダムピンニングガラス系のシミュレーションを行い, 理論的な予想の検証を行った。そして, エントロピーがゼロになる状態をシミュレーションにより生成し, 理想ガラス転移温度を抽出することに初めて成功した。さらに, 得られた理想ガラス転移温度をcの関数として求めることで, 過冷却液体相と理想ガラス相の相図を描くことに成功した。これらの結果は, ランダム一次転移理論による動的不均一性のシナリオを強く支持するものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では, コンピュータシミュレーションを用いてガラス系とジャミング系の動的不均一性を同時に解析・比較研究を行う予定であった。しかしながら本年度は, ガラス系における動的不均一性を引き起こす根本的な原因だと予想されている理想ガラス転移の問題に取り組んだ。そのため, 当初の研究計画よりも進展は遅れてはいるが, ガラス系の理想ガラス転移について多くの知見を得ることができ, 論文を投稿する所までできている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって, ガラス系の動的不均一性の原因であると考えられている臨界点, 理想ガラス転移温度の抽出に成功した。そこで来年度は, ガラス系における動的不均一性の解析と理想ガラス転移との関係について探求する。その後, ジャミング系の動的不均一性を解析し, ガラス系との比較研究を行う。そして, ガラス・ジャミング系の動的不均一性の統一的な理解を試みたい。得られる結果を, 研究会や会議で発表・議論を行い, 研究をより深めていく。
|
Research Products
(4 results)