2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J01907
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
有本 晃一 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 分子系統 / 分類学的再検討 / 社会性の進化 / ハシリハリアリ / 軍隊アリ / 東洋区の生物多様性 / 野外調査による対象生物の直接的観察 / 新種記載 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度、ハシリハリアリ属種のサンプル収集のため、野外調査を4か所で行った。1か所目、マレー半島では未入手のサンプルを得、さらに一部種の採餌行動を初めて詳細に観察できた。2か所目、台湾では初めての野外調査を行い、台湾に分布する本属全種のサンプルを採取した。同時に台湾農業試験場と台湾国立科学博物館で標本調査を行って、台湾から全くの未知であった1種を見出した。3か所目、沖縄本島でも初調査を行った。本島には台湾との共通種が分布し、地理的隔離された個体群として注視すべき重要な場所であった。4か所目、スマトラ島でも初調査を行い、本属種10種のサンプルを採取した。これまで調査を行った地域の種と合わせて、地史を色濃く反映した生物地理学的に重要なサンプルであった。 研究室では、形態観察から種群の設立、各種の再検討を行った。結果、東洋区に分布する本属には13種群107種(うち51種が未記載)が含まれることが分かった。この種数は研究を始める前に知られていた種数(60種)を大幅に上回るものであり、東洋区において本属の種多様性が非常に高いことが明確になった。また、全世界の本属の種数が本研究により約350種となり、アリ科の中でも上位3番に入る程の種数を包含していることが判明した。 また、ミトコンドリア遺伝子の塩基配列(1,461bp;COI, Cytb, 16SrDNA)を用いて、最尤法、ベイズ法による分子系統樹(67 OTU)を作成した。その結果、形態情報によった種群は概ね単系統群であることを確認した。同時に軍隊アリ化現象(数千~数万個体の大集団で採餌を行う等の特殊な生態的特性)は分岐の深い単系統な3種群(processionalis種群、myops種群、currens種群)で生じており、この単系統群の共通祖先で1度のみ軍隊アリ化現象が生じたと推定された。 上記研究結果の発表を、日本昆虫学会とアメリカ昆虫学会、日本生態学会で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者の研究は、3項目(分類、系統、生態)にわけることができる。 分類学的仕事に関して、大量のサンプル(1500点以上の乾燥標本と100コロニー以上の液浸標本)を適切に処理し、全く行われていなかった属内での種群の認識・設立をすでに終えており、種レベルでもおおよその種数107種(うち51種が未記載)を集計し終えており、残す作業は研究成果を論文化することのみである。 系統学的仕事に関しては、本年度から本格的に開始したが、十分量のサンプルと分子実験への真摯な取り組みから、すでに学会発表に使用できる系統樹の作成を終えている。この系統樹は論文掲載にも十分に堪えうる質のものであるが、さらなる確実性を追求して継続して実験に取り組んでいる。 生態的な仕事に関しては、複数回の野外調査を積極的に行って、これまで全く観察記録の無かった多くの種の生態を幾度も観察しており、多くの重要な新知見を見出している。これらの観察情報は、過去の論文中に見られる情報量よりも圧倒的に多く、本属の社会構造の進化を考察する上で、十分量に達していると思われる。 上記のことから、申請者はすでに当初設定した研究課題に対する結果の大半を見出しており、申請者の研究はおおむね順調に進展している、と十分に見なせると考える。 また、本年度は、3件の学会発表を行っており、研究成果発表への積極性も十分に評価できるものと考える。3件の学会発表の内、1件はアメリカ昆虫学会での発表であり、英語を用いた国際学会の場にも参加し、学会発表以外でも香川大学やアンダラス大学(インドネシア)で自身の研究に関する特別講演を行っており、アウトリーチ活動もしっかりとこなしていると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
分類学的仕事に関して、これまでの分類学的再検討に関する研究成果を論文化することに努める。また、ヨーロッパの各博物館(ロンドン、パリ、ジュネーブ、ジェノバ等)を訪れ、タイプ標本を含めた所蔵標本を調査し、分類学的再検討の内容をさらに確固たるものにする。これまでの研究は働きアリに焦点を充てたものであったので、他のカースト(雄アリ、女王アリ)に関しても形態観察を行う。 系統学的仕事に関しては、ミトコンドリア遺伝子の解析結果をさらに鮮明にするため追試実験を行うとともに、核遺伝子を用いた実験にも着手する。また、塩基配列データの解析手法についての知識を深め、より最もらしい系統樹構築を目指す。ミトコンドリア遺伝子に関する解析結果については、論文を執筆する。 野外調査をこれまで行っていなかった地域(ベトナム等)で予定しており、調査の不十分であった沖縄本島でも再度調査を行うことを予定している。また、これまでの調査で得られたサンプルを用いて、巣内の働きアリの個体数や女王アリ形態、女王アリの卵巣小管数、受精のうサイズを計測し、分類系統情報と照らしあわせ、各形質の進化について考察する。 上記の内容について、雄アリと女王アリの分類学内容を日本昆虫学会、本属全体の系統関係をアメリカ昆虫学会、生態の進化を日本生態学会にて、発表する予定である。
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Research Products
(3 results)