2015 Fiscal Year Annual Research Report
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14J01907
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
有本 晃一 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 分類学的再検討 / 分子系統解析 / 生態進化 / 東洋区の生物多様性 / ハシリハリアリ / 社会性昆虫の社会構造 / 社会性昆虫の採餌行動 / 新種記載 |
Outline of Annual Research Achievements |
ハシリハリアリ属の試料収集、生態観察のため沖縄本島で野外調査を行った。その試料とこれまで蓄積してきた試料を用いて、日本産(奄美大島、徳之島、沖縄本島)と台湾産の標本を比較した結果、日本産と台湾産のハシリハリアリは別種であることが判明した。 また、ヨーロッパの7か国(ドイツ、オーストリア、イタリア、スイス、フランス、ベルギー、イギリス)・9か所の自然史博物館を訪れ、乾燥標本の調査を行い、一部を借用した。これにより、本属のほとんどの種のタイプ標本を見ることができた他、過去の分布記録の報告論文に使われた標本の多くを検することができた。 実体顕微鏡を用いて収集した標本の外部形態を観察し、分類学的再検討を行ったところ、東洋区から100未記載種を含む173種を確認した。この種数は研究を実施する以前に知られていた種数の約3倍にあたり、東洋区は非常に種多様性の高い地域であることが明らかになった。 また、これまでに取集した分子解析用試料を用いて、70 サンプル分のミトコンドリア遺伝子と核遺伝子の4領域 (COI, Cytb, 16SrDNA, wingless)を合わせた2,550bpの塩基配列を決定し、最尤法とベイズ法を用いて分子系統樹を作成した。両手法による系統関係は概ね一致し、大半の分岐において高い信頼度を持つ系統樹が作成された。系統解析の結果から、本属は2系統に大分されることが判明した。片方の系統は含まれる全ての種が東洋区に固有である。もう片方の系統は世界中に分布する系統であるが、その中から東洋区に固有の系統が生じていることがわかった。よって、本属内には東洋区に固有の系統が独立に2回生じているが判明した。また、東洋区固有の系統に含まれる種は、固有の形態的特徴と固有の生態的特徴を持つことも判明した。 上記の成果に関して、2回の国内学会大会と2回の国際会議において発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
東洋区に分布するハシリハリアリ属のほぼ全てのタイプ標本はヨーロッパに保管されているため、種を再検証する際の障壁になっていた。しかし、27年度にヨーロッパの主要な博物館をすべて回り、必要なタイプ標本のほとんどをみることができた。また、タイプ標本以外のコレクションも調査できたことにより、当初予想していた以上に多くの未記載種(100種)がいることが判明した。 ヨーロッパに標本調査に訪れた際、現地のアリの研究者と交流を持つことができた。その研究者と親交を深めたことにより、入手が困難であったアフリカや南米の分子系統解析用試料を提供していただけることとなった。これにより、これまでは東洋区に限定した試料を用いて系統樹を作成していたが、全世界を見渡した系統樹の作成が可能となった。 系統解析では、最尤法やベイズ法などの樹形探索法により、非常に信頼度の高い系統樹が作成できた。早期に信頼度の高い系統樹を作成できたことがたたき台となり、分岐年代の推定や祖先形質の復元など当初予定していなかった分野にまで調査範囲を拡大することができた。それらの成果は国内学会や国際会議で発表するに至った。 さらに研究内容を発展させて、東洋区のハシリハリアリには他の地理区では見ることのできない固有の採餌行動と形態形質の相関した進化が見られることが判明した。その固有性を包含することにより東洋区の多様性は非常に高くなっていることが示唆された。この内容はポスター発表として第76回日本昆虫学会大会・第60回日本応用動物昆虫学会大会 合同大会において公表し、ポスター賞をいただいた。 以上のように、27年度は予期せぬ事態が多く生じたが、それらは研究をより良い方向に向かわせるものばかりであり、当初の計画を大きく上回って研究が進展たといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
分類学的再検討に関しては、種分類だけでなく、種群の設立を行い分類体系を整理することに努める。現在、ハシリハリアリ属の分類体系は各地理区ごとに異なる研究者が独立して行ってきたため、地理区をまたいで共通の種群が分布していることは考慮されておらず、同物異名が生じている可能性がある。そこで、他の地理区のアリにも焦点をあて、包括的に外部形態を観察し種群の検討を行う。種分類の関する研究成果は順次、論文化し公表していくことに努める。 DNAの増幅がうまくいかず系統解析に含めなかった試料に関して、分子実験の追試を行ったり、新たに有用なプライマーを開発したり、DNAポリメラーゼの種類を変更したりなどして、系統解析に加えることができるように改善する。また、これまでの系統解析では、ハシリハリアリ属の外群となる分類群は数サンプル分しか使用していなかったが、今後は外群に関してもハシリハリアリ属と同程度の量の試料を使用していく。分類学的再検討に際して、設立した種群に関しては、系統解析の結果と照らし合わせて、単系統性や種群間の類縁性を検証する。もし分類体系と系統解析結果に齟齬が生じた場合は、収斂進化などの可能性を考慮して改めて形態を観察し直したり、系統解析に用いる遺伝子領域を変更しても同じ結果になるのか追試したりする。すでに学会発表を行った生態進化に関する内容は、順次論文化し公表していく予定である。 野外調査をこれまで行っていなかったインドシナ地域にて調査を予定している。主に、ベトナム北部とラオス中部での調査を計画しており、現地では生態の観察と分子系統解析用の追加試料を収集する。
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Research Products
(4 results)