2014 Fiscal Year Annual Research Report
「男性稼ぎ手モデル」の超克ーイギリス家族政策にみる「代替モデル」の構想と移行過程
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14J01990
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
田中 弘美 同志社大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 男性稼ぎ手モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
主に(1)「男性稼ぎ手モデル」を超克しうる「代替モデル」の理論的再考、(2)イギリスのチャイルドケア政策立案過程の言説分析を行った。 (1)まず、「男性稼ぎ手モデル」の脱却とそれに代わるモデルに関して1990年代以降に行われてきた議論を、フェミニスト比較福祉国家論を中心にレビューした。「脱家族化」をはじめとする理論的モデルを幅広く検討し、「男性稼ぎ手モデル」からの脱却において我々がめざすべきモデルはどのようなものか(規範論)、そのモデルにはいかにして到達しうるか(政策論)の2つの視点から査定した。その結果、準拠する理論枠組みとして「earner-carerモデル」に到達した。この過程で、近年、比較福祉国家研究でもっとも頻繁に議論されてきた概念の一つである「脱家族化」の脆弱性を明らかにした。さらに、これまで論じられてきた「earner-carerモデル」(Sainsbury 1999; Gornick and Meyers 2008)は定義・政策論としての枠組みの再考の必要があったため、このモデルの理念型として新たに3つの型(①連続就労/公的ケア型、②非連続就労/家族ケア型、③柔軟就労/協働ケア型)を析出し、オリジナルの分析枠組みを構築した。 (2)上記の分析枠組みに基づき、イギリスを③柔軟就労/協働ケア型に分類した。その上で、なぜ①・②型の方向に進まなかったのか、これらの方向性は家族政策展開の過程で議論されたのかについて、新労働党政権下のチャイルドケア政策展開を分析した。現時点での結果として、北欧諸国のような公的セクターによる普遍的・連続的な「エデュケア」体制への転換については現実的な選択肢としてほとんど議論されておらず、その要因として①経路依存性(公・民・ボランタリーセクターによる複合構制の歴史)、②普遍主義と選別主義のジレンマ等が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画として定めていた「男性稼ぎ手モデル」からの脱却に関する「理論的再考」から、それをふまえた国際比較を経て、イギリスの代替モデルの内実を明らかにするという目標を達成することができたため、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題として、(3)政策立案過程における推進・阻害要因および政策効果に関するキー・インフォーマント・インタビューの実施を予定している。 具体的には、イギリス労働党政権下のチャイルドケア、ワークライフバランス政策の展開に関して、なぜそのような政策・制度の実施に至ったのか(および、なぜ他の選択肢に至らなかったのか)、その要因となるものを明らかにすることを目的とする。当該課題の前段階で実施した、議会および審議会の議事録の言説分析を通して得た仮説的結果を照らし合わせて検証し、また議事録のみでは確認することができなかった他の要因も新たな知見として得ることが期待される。さらに、インタビュー対象者には、政策の展開と実態の(非)変化の関係を探ることを目的として、政策の成否についても問うた上で、今後の政策のあるべき方向性を表してもらう計画である。
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Research Products
(4 results)