2014 Fiscal Year Annual Research Report
近現代フィリピンにおける民族衣装をまとった聖母像の研究
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14J02057
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
古沢 ゆりあ 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 美術史 / フィリピン / 近代美術 / 宗教美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フィリピン近現代美術に見られる「民族衣装をまとった聖母」像を対象として、聖母子像の現地化と、視覚イメージにおける民族アイデンティティの表象に関する美術史学的・文化人類学的研究を行うものである。 平成26年度は、前半は、日本国内にて、これまでの収集データの整理と、学会発表などを行い、研究の達成点と今後の課題を把握した。後半は、9月30日より翌年4月10日までの約半余り、フィリピンにて主に次の三つの事例について現地調査をした。各事例の調査の概要と結果(進展状況)は以下の通りである。 1)フィリピン最初の現地化した聖母像とされる「バリンタワックの聖母」像について、一次資料(1920~40年代)と先行研究の調査、フィリピン独立教会関係者への聞き取りを中心に、像の成立の経緯とその象徴性について調査した。その結果、像の成立には19世紀末から20世紀初頭にかけての独立運動と当時の知識人の思想が深く関わっていることが明らかになった。 2)フィリピン近代美術における最初の現地化した聖母像とされる油彩画「褐色の聖母」(ガロ・オカンポ作、1938年、UST博物館蔵)について、作品に関する初期の記録を当時の刊行物を中心に調査した。その結果、作品の発表当時における批判と擁護の議論の詳細が明らかとなった。また、初期の記事における作品の写真と現存する作品に差異があることから、本作品は制作後に加筆がなされた可能性があることがわかった。 3)1949年にネグロス島シライ市で創設されたカトリックの信仰刷新運動「バランガイ・サン・ビルヘン(聖母の村)」の守護聖人であり、現地の衣装をまとった現地人女性の姿をした「バランガイの聖母」像について、シライ市にてバランガイ・サン・ビルヘンの共同体で参与観察などを通して調査した。信徒の人々と聖母像との関わり方を通して聖母崇敬のありようを調査できた他、聖母像にまつわる奇跡譚などを収集することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
調査対象となる事例に関するデータ収集はある程度まで成果があった。これまで先行研究で言及されていない一次資料についても発掘することができ、それらは今後の分析により研究対象について新たな知見をもたらすであろう。一方で問題点は、存在したと目される歴史資料で入手できないものがあったことで、それらはフィリピン国内の図書館や文書館、また国外などその他の場所にも現存していない可能性がある。 まず、フィリピンのアメリカ統治下時代の1930年代~40年代初頭にかけての歴史資料が、戦争による焼失などのためフィリピン国内にあまり残されておらずアクセスが困難であることである。 また、「バリンタワックの聖母」に関する最初期の記述を含むとされる新聞「La Vanguardia」の記事を発見できていないことである。それはこの新聞の1910~25年分がフィリピン国内で見つからないためである。 「褐色の聖母」に関しては、初期における作品の加筆の可能性が明らかになった。しかし問題点は、1938~40年代初頭の新聞等、フィリピン国内に現存している資料が限られていること、作品の所蔵者がX線調査を行える環境にないことで、作品の加筆が、歴史資料からも科学調査からもまだ証明されるに至っていない点である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は、研究対象の各事例に関するデータを引き続き収集すること、さらにそれらを整理分析し、論文にまとめることである。 平成27年度においては、前年度におけるフィリピンでの現地調査で入手できなかった歴史的資料の問題を解決するため、さらなる調査を継続する。フィリピン国内に残されていない資料でアメリカ統治時代のもの(1938年前後のPhilippines HeraldやManila Daily Bulletinなど)には、アメリカの国会図書館(ワシントンDC)に所蔵されているものもあるので、それらの資料を閲覧するためアメリカの国会図書館へ赴き調査する予定である。
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Research Products
(4 results)