2014 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト運動制御系における最適フィードバック制御機構の実証
Project/Area Number |
14J02174
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 拓志 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 腕到達運動 / 最適フィードバック制御理論 / 視覚運動変換写像 / 視覚運動回転課題 / 視覚誘発反射応答 / 運動学習・適応 / 運動プリミティブ |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の巧みな運動は、脳の感覚運動系が持つ(1)目標に向かって予測的に動作を遂行するフィードフォワード制御能力、(2)運動中に生じた誤差を素早く正確に修正するフィードバック制御能力、(3)これらの制御機構を状況に応じて最適化させる適応能力、によって支えられている。これまでの運動制御・運動学習に関する諸研究は、感覚運動系が持つこれらの能力を独立の研究対象として捉えられてきた。本研究はこれらの能力の関係を解明するものである。 例えば、テニス選手がボール(視覚情報)に向かってラケットを巧みに操作する(運動遂行)ように、(1)を達成するため、視覚情報から適切な運動指令を生成するための変換写像を保持していると考えられる。しかし、それだけではボールの不規則な動きや筋疲労によって生じる運動誤差には対処できない。つまり、感覚運動系は(1)の能力とは別に、(2)および(3)が必要となる。これらは、無意識的に生じる自律的な過程であることが明らかになってきているが、なぜ感覚運動系が(2)および(3)を正確に作動できるのかは不明であった。 右にずれたら左に修正するように、(2)および(3)には誤差を修正すべき「動作」の知識が必要不可欠である。すなわち、動作を正確に遂行するために構築された写像が、(2)および(3)の背景的能力として扱われていると仮説を立て、これを検証した。被験者は腕到達運動中に手と表示されるカーソルにずれを課し、視覚情報と運動実行の対応関係に変化を与えることで、写像を任意に歪めた。この課題を十分に学習したのちに、予測できない外乱を与え運動誤差を誘発すると、新たに獲得された写像に対応した(2)および(3)が観察された。 平成26年度に行動実験によって明らかにした結果は、視覚運動変換写像を介して感覚運動系が有する能力を統一的に解釈できるという新たな視点を提供している点で重要な意義を持つ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ヒトが目標に向かって動作を自在に行えること(運動制御)は、脳の感覚運動系が達成すべき目標である。この運動制御は予測的に運動指令を生成するフィードフォワード制御と、得られた誤差に応じて修正を行うフィードバック制御に大別できる。最新の運動制御モデルである、最適フィードバック制御理論は多くの行動学的知見を包括可能であると周知されている。しかし、この理論ではフィードフォワード制御とフィードバック制御に明示的な区別はなく、両者の関係性は曖昧なままであった。平成26年度に実施した研究によって、フィードフォワード制御に用いられる知識(視覚運動変換写像)が、フィードバック制御にも同様に採用されていることを明らかにした。この研究結果により最適フィードバック制御理論が示す制御機構の関係性について重要な示唆を与えられている。 さらに、感覚運動系が恒常的に安定した動作を発揮するために、常に誤差を監視し、感覚運動系それ自体を維持・改善していくこと(運動学習)が必要である。最適フィードバック制御理論は、運動学習によって変化可能な変数が多数ある、冗長なモデルであるため、学習に伴いそれぞれの変数がどのような変化を示しうるか明らかではなかった。本研究では、フィードバック制御と同様に、運動学習時も視覚運動変換写像を参照していることを明らかにした。これは当初の目的にはなかったが、別個に扱われてきた研究対象を統一的に解釈する視点を与える点で非常に大きい意義を有する。 平成26年度の成果として、運動制御と運動学習の密接な関係を、行動実験を通して明らかにした。この成果は、学会発表などを通して、評価されている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究では、ヒト運動を恒常的に達成するために重要な、感覚運動システムの要素である、フィードフォワード制御・フィードバック制御および運動学習がそれぞれ深い関連性を保ちながら有していることを行動実験を通して明らかにした。これらの結果は、平成27年度に学術論文としてまとめることを予定している。平成27年度は、ヒトの運動制御・学習の背後にある感覚運動系の特質に関して、さらなる理解を深めるための研究を進めることを予定している。具体的には、視覚運動変換写像の統計的性質の共有関係や、運動制御・学習における統一的な数理モデルの構築を目指している。
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Research Products
(5 results)