2015 Fiscal Year Annual Research Report
根毛と膜輸送システムから解く植物の無機イオン吸収と蓄積の機構
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14J02201
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
田中 奈月 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 根毛 / リン酸欠乏 / 細胞壁 / 種子 |
Outline of Annual Research Achievements |
根毛を形成しない新規な変異株を用い、野生株とのプロテオミクスによる比較解析により、リン酸欠乏時の野生株の根毛にのみ検出されるタンパク質SRPP を見出し、根毛特異性の高い分子として注目した。リン酸欠乏時には根毛が著しく増加し、リン酸の吸収に関わる根の表皮細胞のリン酸トランスポーターの発現上昇、難溶性のリンを吸収可能な形にするための酸性ホスファターゼや有機酸の分泌増大に寄与している。このようにリン酸欠乏時の根毛は重要な役割を果たしており、SRPPは根毛でどのような働きをしているのかを解明することとした。 まず、機能欠失株srppを入手し、野生株と表現型を比較することによりSRPPの機能を推定した。srpp株は通常条件下では根毛に目立った表現型を示さないが、根毛が増加するリン酸欠乏あるいはエチレン処理の条件下では、根毛が短くなり、壊死している根毛の頻度が高かった。また、srpp株では萎縮した種子が多いという特徴もみられた。萎縮した種子では胚発達が途中で止まり、多数の細胞が死んでいた。プロモーターGUS解析により、SRPPは根毛や種皮、胚、鞘、珠柄、未熟な葯に強く発現していることを確認した。また、機能欠損株に自己プロモーター制御下でSRPPを発現させ相補すると、表現型が回復することも確認し、表現型の原因がSRPP遺伝子の欠損であることを証明した。これらの結果から、SRPPは乾燥などのストレスから根毛や胚、花粉を保護する役割をしているのではないかと推測している。さらに、GFPを融合させたSRPPタンパク質の局在を観察したところ、細胞壁に局在していることが分かった。srpp株の胚を電子顕微鏡で観察すると、細胞壁が湾曲し、厚さが一定ではなく不均一になっている様子も見られ、SRPPは正常な細胞壁の構築に関与していると推定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでに、液胞膜亜鉛輸送体に関する生化学的解析についての論文、亜鉛輸送体の亜鉛濃度センサー部位の植物体での分子生理学的特性に関する論文、そして根毛の分子生理学的機能に関する論文発表した。今年度は、新規な機能タンパク質 SRPP分子を見出し、その分子生物学的特性を解析し、根毛と種子をストレスから護る役割を推定した。SRPPは、根毛を形成しない変異株と野生株のプロテオミクス解析により、リン酸欠乏時の野生株の根に特徴的に検出された分子である。一般に、リン酸欠乏条件下で根毛は増え、長くなる。したがって、SRPPは根毛特徴的な分子と位置づけられる。165アミノ酸で構成されるSRPPは、根毛と種子(果実)に特徴的な分子であり、細胞壁に検出された。SRPPについて、精緻な解析結果を示す論文は発表されておらず、類似の既知分子もない新しいタイプのタンパク質分子であり、今回、SRPPの特性と役割を解き明かしたことは、当初の予定、期待を大きく超えた研究成果であった。加えて、機能解明に関する研究の行き詰まっていた情報変換分子PCaP1について、再び焦点を当てた。網羅的な表現型解析の結果、予想もしなかった根の水分屈性に関わる機能を示唆する知見を得て、これを検証した。さらに、PCaP1が気孔の閉鎖に関与していることも明らかにし、他の知見と合わせて論文発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
根毛や種子の保護に関与していると推定しているSRPPタンパク質に関しては、機能欠失株での生理機能の推定、GFP標識SRPPの観察による細胞壁局在の検出を明らかにした。今後の課題として、具体的な生化学的な特性を明らかにし、かつ、根毛伸長に連動して遺伝子発現する分子生物学的な機構の解明が必要である。そこで、SRPPの生化学的特性および相互作用分子の側面から機能を探るため、GFPあるいは他のタグで標識した分子を用いた免疫沈降、SRPPの大量調製標品を用いた生化学的特性の解析、細胞壁成分との相互作用の有無やその様式の解明などを進める。さらに、根毛伸長という形態形成のプロセスとSRPPの遺伝子発現と翻訳がどのように同調するのか、すなわち、根毛が伸びるという現象をSRPP遺伝子はどのように感知し発現に結びつけているのかを解明する。そして、リン酸欠乏時の根毛の応答と役割についてのSRPPの分子機能モデル、また正常な種子形成におけるSRPPの機能モデルを提案したい。 根の水分屈性と気孔閉鎖に関与しているシグナル伝達タンパク質PCaP1に関しては、現在、pcap1株に対する組織特異的PCaP1遺伝子の発現による相補株の作製、機能欠失株pcap1における細胞骨格の観察、水分屈性に関わるMIZ1タンパク質とPCaP1の関係性の解析などを進めている。今後、細胞伸長に関わるオーキシンの流れとオーキシン輸送体の局在(偏在)や、水分屈性に関わる他の分子との相互作用も解析することによって、水分屈性時における分子レベルでの情報伝達機構を解明したい。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] A plasma membrane associated phosphatidylinositol phosphate-interactive, Ca-binding protein PCaP1 in Arabidopsis thaliana: stable association with plasma membrane and partial involvement in stomata closure2016
Author(s)
Nagata, C., Miwa, C., Tanaka, N., Kato, M., Suito, M., Tsuchihira, A., Sato, Y., Segami, S. and Maeshima, M.
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Journal Title
Journal of Plant Research
Volume: 129
Pages: 印刷中
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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[Presentation] Characterization of the histidine loop of Arabidopsis vacuolar membrane zinc transporter AtMTP1 as a sensor of cytosol zinc level2015
Author(s)
Tanaka, N., Fujiwara, T., Tomioka, R., Kraemer, U., Kawachi, M., Maeshima, M.
Organizer
Plant Growth, Nutrition & Environment Interactions (VISCEA(Vienna International Science Conferences and Events Association))
Place of Presentation
Vienna
Year and Date
2015-06-25 – 2015-06-26
Int'l Joint Research