2014 Fiscal Year Annual Research Report
超高分解能スピン分解光電子分光装置の開発とトポロジカル絶縁体の微細電子構造の研究
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14J02396
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 祐輔 東北大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 超高分解能スピン分解光電子分光装置 / トポロジカル絶縁体 |
Outline of Annual Research Achievements |
超高分解能スピン分解光電子分光装置の開発の鍵となるVLEED型スピン検出器と電子偏向器を製作し、電子エネルギー分析器と接続してスピン分解測定システムを構築した。分解能を下げる要因である、漏洩磁場をミューメタルシールドにより遮蔽し、また検出器内部の電極表面処理を行った。また、ターゲット位置に電子ビームが収束するように、電子偏向器の位置や電子レンズパラメータを最適化した。装置建設・改良と並行して、強磁性体薄膜ターゲットの作成を行った。MgO上に鉄薄膜を作成し酸素処理を施した薄膜をターゲットとして用いることで、高スピン検出効率をもち、かつ真空中で二週間以上の安定なターゲットとして使用できることを見出した。VLEED検出器に強磁性体薄膜ターゲットを組み込み、標準試料としてAuのスピン分解ARPES測定を行い、スピン分解時の分解能を評価し、5meVの高分解能化が実現した。 電子状態の研究については、建設した超高分解能スピン分解光電子分光装置を用いてトポロジカル絶縁体Bi2Se3薄膜のバンド構造、フェルミ面を決定することに成功した。また、薄膜の層数を厚い領域から薄い領域まで制御することで三次元トポロジカル絶縁体から二次元トポロジカル絶縁体へのクロスオーバーが期待されるため、膜厚を変化させた試料を作成し電子状態の決定を行った。薄い領域では表面と裏面に現れたディラックコーン同士が混成しギャップが開いていることを明らかにし、クロスオーバーに起因した電子状態の変化を観測した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、スピンに依存した電子状態を高精度で決定するために超高分解能スピン分解光電子分光装置の開発を行った。その結果、従来のスピン分析器と比較し測定の高効率化とエネルギー分解能の向上を実現した。またトポロジカル絶縁体薄膜の作成に成功したので、完成した装置を用いて膜厚に依存した微細なスピン構造の変化を観測・議論することが可能となったため順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
いくつかの物質・厚さ・表面処理を施した薄膜を作成し、研究室所有のモット検出器を用いて評価を行い、高スピン検出効率をもち、かつ真空中で長時間安定なターゲットの作成条件を見出す。最終的にスピン分解時の分解能として1 meVを目指す。完成した装置を用いて、トポロジカルクリスタル絶縁体の超高分解能スピン分解測定を行い、結晶面に依存した表面電子状態のフェルミ面形状や、ディラック錐の波数位置、スピン偏極度を完全決定し、その特異な物性と電子状態の関係を明らかにする。 真空槽内で試料に一軸圧力を印加できる機構を製作し、圧力によってバルクバンドギャップを制御してトポロジカル-非トポロジカル量子相転移を引き起こし、その際の表面電子状態やスピン偏極度とバルクバンドギャップの大きさの圧力依存性について明らかにする。さらに、鏡映対称性によって保護された表面状態をもつトポロジカルクリスタル絶縁体SnTeにおいて、圧力印加により鏡映対称面数を二枚から一枚に変化させ、その際ディラック錐の数が四つから二つに変化するかどうかを観測し、圧力による表面状態のキャリア制御の可能性について研究する。また、トポロジカルクリスタル絶縁体SnTeをベースとした新規超伝導体(In, Sn)Teのスピン分解ARPESを行い、特異な超伝導電子状態とスピン偏極ベクトルの関係について明らかにし、この物質が結晶のもつ鏡映対称性に立脚したトポロジカルミラー超伝導体の可能性を検証する。
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Research Products
(3 results)