2014 Fiscal Year Annual Research Report
プロトン共役電子移動を利用した新規均一系窒素固定ルテニウム触媒の開発
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14J02445
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
牧野 美咲 筑波大学, 大学院数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ルテニウム / プロトン共役電子移動 / 酸化反応 / 速度論的同位体効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、Ru(II)アンミン錯体(錯体1)から、プロトン共役電子移動機構による酸化によって生成したRu(V)イミド錯体(錯体2)の、酸性水中における有機基質との反応性および反応機構を検討した。イミド錯体は、本研究の最終目標である水中での窒素固定において、中間体となることが推測される化学種であり、その反応性を調べることで、窒素固定触媒サイクルの構築に対する重要な知見を得られると考えられる。 錯体2の重水溶液(pD 2.9)に、2-プロパノールを加えて反応させた後、1H NMRを測定すると、アセトンの生成を示唆するシグナルが観測された。一方、Ru錯体に由来するシグナルは反磁性領域に観測されず、常磁性であるRu(III)の状態になっていることが示唆された。反応後、ヒドロキノンを加えて錯体を還元すると、錯体1のシグナルが観測され、イミド配位子の窒素は、基質に移らずに錯体上に残ることがわかった。この反応の反応機構を明らかにするために、基質のC-Hに対する速度論的同位体効果(KIE(C-H))と、溶媒に対するKIE(KIE(Sol))を求めた結果、KIE(C-H)は0.92、KIE(Sol)は2.0となり、溶媒のKIEが示唆された。しかし、アルコールのOHは、重水中で交換してODとなることから、今回観測されたKIEが、OH結合の解裂に由来するのか、溶媒に起因するのかを調べるために、OH基を持たない水溶性エチルベンゼン誘導体を基質に用いた反応を検討した。その結果、生成物として1-フェニルエタノールが得られ、KIE(Sol)は6.2となり、錯体2は、明確な溶媒のKIEを示すことがわかった。 以上の結果から、今回合成した錯体2と有機基質との反応は、基質からの錯体2へのヒドリド移動に付随して、オキソニウムイオンからのプロトン引き抜き反応が起こり、生成物とRu(III)-アンミン錯体が生じることが示唆された。錯体2の水中における反応性は、既報のイミド錯体や、同じ補助配位子を有するオキソ錯体とは全く異なることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、窒素固定触媒サイクルの中間体となることが示唆されるRu(V)-イミド錯体の有機基質との反応性および反応機構を解明し、基質を電子源、溶媒である水をプロトン源としてRu(III)-アンミン錯体が生成することを明らかにした。この結果は、本研究で目標に掲げている「水をプロトン源として窒素固定を行う」ことを実現する見通しがついたことを示しており、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、窒素錯体の合成を行い、配位した窒素を還元することで、窒素固定を行う計画である。配位した窒素分子の活性をより高めるために、N4Pyが持つメチン炭素に結合したピリジン環の6位に、配位した窒素分子と水素結合が可能なアミド基を導入した補助配位子(6-NHCO-N4Py)を有する新規窒素錯体の合成、およびキャラクタリゼーションを行う。特に、pHの変化に伴う酸化還元電位の変化を電気化学測定によって測定し、窒素錯体のプロトン共役電子移動特性を確認して、配位窒素分子の還元反応に適切なpHを決める。適切なpHに調整した水溶液に、還元剤もしくは電解還元をすることで、窒素のアンモニアへの触媒的変換を試みる。
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Research Products
(3 results)