2014 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属触媒によるsp3炭素ーフッ素結合の選択的活性化と官能基化
Project/Area Number |
14J02480
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
市塚 知宏 筑波大学, 大学院数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | 有機合成化学 / 有機フッ素化合物 / 遷移金属触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機フッ素化合物は近年、医農薬や材料科学などの応用分野で大きな注目を集めているが、その合成法は十分に整備されていなかった。そこで申請者は、複数のフッ素置換基を有する入手容易な出発物質に対し、その炭素-フッ素結合の切断と官能基化を同時に行うこと(炭素-フッ素結合の活性化)により、有用な有機フッ素化合物を合成する手法の開発を行った。ここで問題となるのは、炭素-フッ素結合が高い結合エネルギーを持つ非常に安定な化学結合であり、その活性化が困難である点であった。そこで申請者は、炭素-フッ素結合の活性化手法として、穏和な条件下でも効率的に進行するβ-フッ素脱離に注目し、それを活用した有機フッ素化合物の合成反応を開発した。 (1) ニッケル触媒による2-ペルフルオロアルキル-1-アルケンとアルキンの脱フッ素カップリング: ニッケル錯体による酸化的環化とβ-フッ素脱離を組み合わせることで、ペルフルオロアルキルアルケンとアルキンの脱フッ素カップリングを二種類開発した。さらに、金属-フッ素結合を有する反応中間体がフッ素と親和性の高い元素を含む有機金属反応剤によって還元できることに着目し、反応の触媒化にも成功した。(2)ニッケル触媒によるジフルオロプロペン誘導体とヨウ化アレーンの脱フッ素カップリング: モノフルオロアルケン類には、生理活性や液晶性を持つものが多く知られており、その効率的な合成法が求められている。申請者は、安価なニッケル触媒を用いた3,3-ジフルオロプロペン誘導体に対する脱フッ素アリール化によるモノフルオロアルケンの合成反応を見出した。本反応は、極めて穏和な条件下で進行することから、従来法では得難い高い官能基許容性を有するモノフルオロアルケン類の合成法としての展開が期待できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、遷移金属触媒を用いたアリル位炭素-フッ素結合の活性化を経るカップリング反応の開発を検討した。その結果、安価なニッケル触媒を用いた脱フッ素カップリングを二種類開発することができた。 2-ペルフルオロアルキル-1-アルケンとアルキンの脱フッ素カップリングを見出し、様々なフルオロアルケン類の合成を達成した。本反応は、適切な還元剤を選択することで、同一の出発物質から環状フルオロアルケンと直鎖状フルオロアルケンをそれぞれ作り分けることも可能である。さらに申請者は、3,3-ジフルオロプロペン類とヨウ化アレーンの脱フッ素カップリングによるモノフルオロアルケン類の合成反応の開発にも成功した。 これらの反応は、炭素-フッ素結合の活性化が非常に穏和な条件下で進行しているため、複雑な骨格を有する有機フッ素化合物の合成への利用も期待できる。また申請者はすでに、ペルフルオロアルキル基の炭素-フッ素結合活性化を達成しており、本プロジェクトの最終目標である「ペルフルオロアルカン類の脱フッ素官能基化」への道を拓きつつある。したがって、平成26年度の本研究課題はおおむね順調に進行していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで得られた知見を基に、本プロジェクトの最終目標である「ペルフルオロアルキル化合物の脱フッ素官能基化」に挑戦する。これまでの問題点は、ペルフルオロアルキル化合物に遷移金属錯体を接近させるために、配位ユニットとしてアルケン部位をペルフルオロアルキル化合物上に導入しておく必要があった。 この制約を解消するために今年度は、より反応性の高い遷移金属錯体であるカルベン錯体やイミド錯体を用いて検討を進める。これらの錯体は、中心金属上が非常に求電子的であるため、フッ素の孤立電子対が中心金属へ配位しやすいと考えられる。これにより、フッ素置換基自身が配位性官能基として働くため、特別な配位ユニットを導入する必要がなくなる。 以上の戦略に基づき、広範なペルフルオロアルキル化合物の脱フッ素官能基化反応の開発を検討する。
|
Remarks |
市川淳士研究室 ホームページ http://www.chem.tsukuba.ac.jp/junji/
|