2014 Fiscal Year Annual Research Report
世界最長の共有結合への挑戦:究極的結合の伸長性と炭素-ヘテロ結合への展開
Project/Area Number |
14J02555
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
内村 康人 北海道大学, 総合化学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 世界記録 / 長い結合 / ヘキサフェニルエタン / 歪化合物 / 共有結合 / X線構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、世界最長のC-C単結合を有する化合物の合成研究を通して、共有結合の極限構造を実験的に明らかにすると共に、究極に長い結合が持つと代表者が提案した『伸長性』という特性を、固相および溶液相での調査から実証することを目指したものである。 本年度は、これまでの世界記録1.791(3)Åを上回る炭素‐炭素単結合を有する化合物の合成研究を行った。長い結合の反対側のペリ位を強く束縛する架橋の導入が有効であるという設計指針に基づき、理論計算を用いた最適骨格の探索を行い、1H-ベンゾ[cd]インドール-2-オン骨格を含むヘキサフェニルエタン(HPE)型化合物を新たに設計した。目的のHPE型化合物は市販の1,5-ジアミノナフタレンから11段階で合成した。そのX線構造解析から、直接的に立体障害の増減に寄与しないアミドの窒素原子上の置換基の違いによって結合長が大きく変化することが見出され、特に、N-ベンジル体では、これまでの世界記録を大幅に超える1.822(5)Åもの長さを誇る結合を有していることが明らかとなった。本結果は、これまでの研究で蓄積した知見に基づいた分子設計指針の有効性を示しただけでなく、結合と非結合(最短の非結合性炭素-炭素原子間距離は1.80(2)Å)の間に存在した『未知』の空白領域を『既知』に変え、人類の知に新たな1ページを刻んだ重要な成果である。 また、結合長の限界付近の領域で起きる現象の解明を目指し、1H-シクロブタ[de]ナフタレン骨格を含むHPE型化合物を設計し、その発生の検討を行った。その結果、予想したHPE型化合物の代わりに、α,o-位で新たなC-C結合の形成が起こった異性体を得た。これまでにHPE型化合物のα,α-、α,p-異性体は報告されているものの、α,o-異性体の報告例はなく、世界で初めてHPE型化合物のα,o-異性体の単離・構造解析に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理論計算の導入によって骨格探索における妥当性の評価が可能となり、本年度の主たる目標であった世界最長のC-C結合を有する化合物の合成を達成した。また、この分子設計を高歪π多環共役化合物合成への展開することで、トリチルラジカルの二量体として想定されながら125年以上も未確認であった、HPEのα,o-異性体の単離・構造決定に世界で初めて成功した。今後は、共有結合の『伸長性』に関する理解を深めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
世界最長の『結合』としての更なる確証を得るため、今後はESR測定を行い、長い結合のビラジカル性の有無についても調査する予定である。また、X線構造解析の測定温度に依存して観測された結合長の変化が、極めて長い結合が持つ『伸長性』に由来する現象なのかどうかについて、理論計算・ラマン分光法を用いた検証を行う。 さらに、これまでに導出した既存骨格を適用して、世界最長のC-O、C-N結合を持つ非イオン性有機化合物を創出に向けた研究にも着手する予定である。
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