2015 Fiscal Year Annual Research Report
国際文化摩擦とグローバル化時代におけるイスラーム国家構想:エジプト思想界の変容
Project/Area Number |
14J02836
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
黒田 彩加 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | エジプト / 中道派 / イスラーム政治論 / 中東地域研究 / イスラーム主義 / アラブの春 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、エジプトの穏健・中道的なイスラーム思想家群が、どのような政治論を展開しているのか考究するものである。中道派にとどまらず、エジプトの様々な政治潮流や思想潮流が、国家と宗教の関係についてそれぞれどのような展望を有し、エジプト政治のなかで組織的・思想的にどのように競合・連関してきたかという点を視野に入れ、研究を実施している。 2年目は、前年度に引き続き、研究対象である思想家の著作分析、フィールドワーク、研究成果の発信を行った。 研究対象である中道派イスラーム思想家ターリク・ビシュリー氏の著作分析を進め、その結果を5月開催の日本中東学会で発表した。発表では、同氏がエジプトの分極化した思想状況の解消にむけて、80年代からアラブの春以降まで一貫した思想発信を行っていることを論じた。その後の文献講読を通じて、思想的対立関係そのものの脱構築をめざす傾向が、他の中道派思想家群にも共通してみられることを発見した。 8月-10月まで、13年の政変後におけるエジプトの思想状況を把握することを目的に、カイロで文献収集と聞き取り調査を主とするフィールドワークを実施した。国立図書館、アレキサンドリア図書館、カイロ市内の書店、宗教省の関連機関などを訪問し、研究テーマに関連する書籍・新聞・論文・プロシーディングスを収集した。また、カイロ市内で実施した聞き取りを通じて、エジプトが擁するスンナ派随一の宗教的権威・アズハル出身の学者、およびいかなる政治・宗教組織にも属さない独立系のイスラーム思想家に対する一般市民の反応を把握した。これらの思想家に対する市民の承認・受容の程度は多岐にわたり、思想家間でも温度差があるものの、学問的出自に関わらず様々な知識人・思想家がイスラーム思想の改革に関わることで、エジプトにおける中道的なイスラームが緩やかながらも強固な基盤をもって広がっていることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象である中道派思想家群の著作分析を質・量ともに充実した状況で進めることができたため。著作分析を通じて、イスラーム政治論の内容そのものだけでなく、中道派思想家群の政治論が、常にエジプトの変容する思想・社会状況と連動しながら発展してきたことを明らかにした。また、フィールドワークを通じた出版状況の調査や聞き取り調査によって、政変後エジプトにおける、イスラームをめぐるエジプトの思想・言説空間に関する知見を深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題の3年目は、研究成果の集大成である博士論文の執筆と、研究成果の発信に取り組むことを主眼におく。また、今後の研究で、中道派思想家群の内的多様性や、中道派潮流と他の思想潮流、政治・宗教アクターとの関わりをさらに明らかにしていく必要がある。そのために必要なアラビア語文献の講読を早急に実施していきたい。
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Research Products
(1 results)