Outline of Annual Research Achievements |
鉄鋼材料におけるマルテンサイトは高強度を示す組織であるが,低温で靭性が大きく低下し,脆性的に破壊することが知られている.脆性破壊は重大な事故を引き起こす可能性があり,確実に防止する必要がある.脆性破壊の様式がへき開破壊である場合,結晶粒界はへき開クラック伝播に対して大きな抵抗となるため,結晶粒径は靭性を支配する重要な因子となる.ラスマルテンサイト組織は,ラス,ブロック,パケット,旧オーステナイト粒といった種々の大きさの微視組織で構成されている.これらの組織単位のうち,いずれの組織単位がマルテンサイト鋼のへき開破壊を支配しているかは,未だ不明である.現在,我々はラスマルテンサイト鋼の低温脆性破壊挙動を調べ,ブロックやパケットではなく,同じBain関係のバリアントの集合の大きさ(Bainサイズ)がマルテンサイトの低温靭性を支配することを明らかにしている. 鋼のベイナイト組織はマルテンサイトと同様に,種々の大きさの微視組織で構成おり,ベイナイトは変態温度の低下に伴って,Bainサイズが減少すると報告されている.そこで,本年度は,変態温度を変化させることによって,異なるBainサイズを有するベイナイト組織を作製し,Bainサイズが低温脆性におよぼす影響を明らかにすることを目的として研究を進めた.1050°C,30minのオーステナイト化処理後,460°Cおよび500°Cでの等温保持により生成したベイナイト組織の平均Bainサイズはそれぞれ4.3μm,17.9μmであり,Bainサイズが異なるベイナイト組織となっていた.これらの組織に対して,微小シャルピー衝撃試験を行ったところ,460°C,500°C熱処理で生成したベイナイトの延性-脆性遷移温度はそれぞれ-88°C,-63°Cであった.この結果から,Bainサイズが減少すると,延性-脆性遷移温度は低下することが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は,低炭素鋼においてBainサイズがマルテンサイト・ベイナイト鋼の低温脆性におよぼす影響を明らかにすることを目的としてBainサイズのみを変化させたベイナイト組織を作製し,低温における破壊挙動を評価する実験を行った.その結果,Bainサイズが減少すると,延性-脆性遷移温度は低下することが明らかとなった.この研究結果は,低温靭性に優れたマルテンサイト・ベイナイト組織を提案するための指針となる重要な成果である.
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Strategy for Future Research Activity |
現在,Bainサイズがマルテンサイト・ベイナイト鋼の低温脆性におよぼす影響を破壊力学の観点から明らかにすることを試みている.一般的に,シャルピー衝撃試験により得られる靭性値は吸収エネルギーのみであるが,破壊靭性試験(3点曲げ試験)を行うことにより,応力拡大係数KやJ積分といった破壊力学に基づく破壊靭性値を得ることができる.特に,J積分の値を亀裂成長量に対してプロットしたJ抵抗曲線は,き裂進展開始靭性(Crack initiation resistance)とき裂伝播抵抗(Crack propagation resistance)の情報を含んでいる.今後は,J抵抗曲線からき裂進展開始靭性とき裂伝播抵抗を求め,Bainサイズが低温靭性におよぼす影響をより詳細に評価する.
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