2014 Fiscal Year Annual Research Report
ブラックホール・中性子星連星の合体に対する数値相対論による包括的研究
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14J02950
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川口 恭平 京都大学, 基礎物理学研究所, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ブラックホール中性子星連星 / 重力波源 / 数値相対論シミュレーション / 高エネルギー物理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブラックホール中性子星連星合体は有望な重力波源であるとともに、降着円盤形成や質量放出によってガンマ線バーストやKilonovaといった電磁波対応天体の源となり得る。特にブラックホール中性子星連星合体においては、合体時中性子星が潮汐破壊を起こすかが重力波波形や降着円盤質量といった量を大きく左右し、中性子星の潮汐破壊の度合いはブラックホールスピン、質量、中性子星の質量、半径(状態方程式)に依存することが知られている。本研究の目的はブラックホール中性子星連星の合体過程の、特にブラックホールスピンの傾きに対する依存性を中性子星の状態方程式の不定性も考慮して系統的に数値相対論シミュレーションによって調べ、これらの合体によって形成される降着円盤や放出される物質の形状や振る舞い、重力波波形への影響を明らかする事である。 昨年度においては研究計画にのっとり、ブラックホールと中性子星連星合体のブラックホールスピンの傾きと中性子星の状態方程式に対する依存性を数値相対論シミュレーションを用いて系統的に調べた。またその解析手法の確立に努めた。得られたシミュレーションの結果の中でも、昨年度は特に合体によって形成される降着円盤や放出される物質の形状や振る舞いに着目した。この結果、世界で初めてブラックホール中性子星連星合体において形成される降着円盤や放出される物質の質量のスピンの傾きに対する依存性を定量的に明らかにした。特に電磁波対応天体が付随しうるスピンの傾きの領域に制限を与えた。また、合体後形成される降着円盤や放出される物質の形状も調べ、スピンの傾きが与える影響を明らかにした。さらに、スピンの傾きが合体後形成されるブラックホールや重力波波形にどのように影響を与えるかを調べ、定性的な理解を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度においては研究計画通り、ブラックホールと中性子星の質量比を5:1、中性子星質量を1.35太陽質量、ブラックホールスピンの大きさを無次元化された量で0.75に固定したうえで、スピンの傾きを30°、60°、90°と変え、かつそれぞれについて原子核物理に基づく4種類の状態方程式を用いた計12種類のモデルについて数値相対論シミュレーションを行いその依存性を調べ、またその解析手法の確立に努め、それを成し遂げた。 また、得られた研究結果を積極的に知らしめる努力をした。実際、得られた一連の結果を論文としてまとめたものは米学術誌のPhysical Review Dに投稿し、現在査読中である。また様々な国内の学会、研究会、セミナーにおいて口頭発表、ポスター発表を行い、自身の研究結果を広く知らしめるとともに国内外の研究者と議論をおこなった。これらを総合すると当初の研究計画を十分に遂行できていると判断されるため。
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Strategy for Future Research Activity |
現在はシミュレーションによって得られた重力波波形の定量的な解析を行っている。スピンが傾いたブラックホール中性子星連星の軌道は歳差運動するため、その重力波波形はスピンが傾いておらず歳差運動しないブラックホール中性子星連星にくらべ非常に複雑なものとなり、重力波波形からブラックホール中性子星連星の情報を抜き出すことは難しく、その解析手法は確立していない。これについては歳差運動を起こす連星ブラックホールにおいて提案されている方法を参考にしながら、軌道面の方向を追跡する観測者が得られる波形と軌道面の変化を分離する方法を用いたモデル化を行うことで、既に中性子星の状態方程式を反映する重力波スペクトルの高周波カットオフ形状を抜き出すなど一定の成果を得ている。現在はさらにこれをすすめ、重力波のテンプレート波形を与えるEffective One Bodyモデルとの比較を行うとともに、近い将来稼働される地上重力波干渉計において得られるであろう実際の重力波シグナルからブラックホール中性子星連星の情報を抜き出すべく、歳差運動の効果を含めた重力波波形のモデル化を行っている。 また、磁場の効果を取り入れたシミュレーションを用いて、ブラックホール中性子星連星合体にスピンの傾きが与える影響を調べる試みも始めている。ガンマ線バースト駆動の中心エンジンの有力候補のひとつとして考えられているブラックホール中性子星連星合体であるが、そのシナリオにおいて磁場は大きな役割を果たすと考えられており、その物理機構の解明には磁場の効果を取り入れた数値相対論シミュレーションが必要である。スピンの傾きによる連星の歳差運動は磁場の発展に大きな影響を与えうるため、現在磁場の効果を取り入れたシミュレーションを先進的に行っている研究者とともに共同でこの影響を調べるべく動いている。
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Research Products
(8 results)