2014 Fiscal Year Annual Research Report
シュルレアリスムにおける「オブジェ」概念の変遷ーマンディアルグ美学を中心に
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14J02976
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松原 冬二 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | マグナ・グラエキア / イタリア / アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ / シュルレアリスム / カステル・デル・モンテ / プラトン立体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究主題「シュルレアリスムにおける「オブジェ」概念の変遷ーマンディアルグ美学を中心に」にのっとり、「オブジェ」という概念のシュルレアリスム的な意味をめぐって、アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグの作品とシュルレアリスムの理論的な資料をこもごも参照しつつ、研究の進展につとめた。具体的には、「オブジェ・シュルレアリスト」の理論的構築にいたる1930年代のシュルレアリスム全体の動向と、戦後に登場したマンディアルグが、40年代以降に形骸化したオブジェの概念をどのように自身の創作へと転嫁するにいたるかを追った。 その際、オブジェ概念の中枢にある「相反する事物の綜合作用」という理念をマンディアルグに啓示し、その後の創作法に具体的な示唆を与えた土地である「イタリア」に注目し、1953年の南イタリア旅行がマンディアルグに決定的な体験として記憶され、作家としての彼の人生の転機となった消息を論文にまとめた。その成果は2014年11月29日に京都大学で開催された日本フランス語フランス文学会関西支部大会における口頭発表および学会誌論文(査読後に掲載が決定済み、2015年5月出版予定)において示された。 ついでシュルレアリスムの理念とマンディアルグの創作が具体的に交わる1950年代以降の資料を参照し、そこからマンディアルグがシュルレアリスムから継承したもの(とりわけ本研究の主題たるオブジェ概念)と、否認したものとの境界を明確にするため、科研費の支援をいただき、2015年3月3日から15日にかけてフランスのパリに海外出張を行い、その期間をパリの国立図書館における資料調査にあてた。もっぱら20世紀後半の雑誌・新聞記事をひろってゆき、マンディアルグ自身が発するシュルレアリスムにかんする貴重な証言などの新しい発見もおおく、実りある調査となった。この成果は、近時発足した関西シュルレアリスム研究会において発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究主題「シュルレアリスムにおける「オブジェ」概念の変遷ーマンディアルグ美学を中心に」にのっとった研究活動が順調に進展したと自己評価できる。というのは、オブジェというシュルレアリスムの概念をマンディアルグがその創作の根本原理として確立するにいたった軌跡を、シュルレアリスムの資料とマンディアルグの作品相互を有機的に結びつけながら、納得のいく成果を残すことができたと考えるからである。 具体的には、2014年11月29日に京都大学で開催された日本フランス語フランス文学会関西支部大会における口頭発表および学会誌論文にて公表した研究(「マンディアルグとマグナ・グラエキア――『大理石』における「南部」の意味をめぐって」)によるところが大きい。この研究のなかで、マンディアルグが創作の方法論として生涯追求することになるテーマ「相反する事物の綜合作用」の萌芽を、イタリアという土地への旅行による直接的体験として啓示され、そこにおいてオブジェという概念へと反射する独自の現象学を構築するにいたった軌跡を明らかにすることができた。作家の創作理念がシュルレアリスムのオブジェ概念との邂逅をみいだす直接的な契機を、イタリアという土地の中に探り当てたことは大きな成果であったと考えられる。 ついでおこなったパリ国立図書館での調査は、膨大なシュルレアリスムの資料のなかから、オブジェに関するシュルレアリストたちの言説や、マンディアルグと直接関わりをもつ記事など多岐に渡る収集を可能にし、実証的な研究資料のいっそうの充実を成果として得た。今年度は、ここで得た資料をひとつの研究論文としてまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に得た研究成果をもとに、さらなる研究の進展につとめる所存である。とりわけ来年度は博士論文の執筆を念頭に置き、すなわち来年度中の博士論文提出を目指し、これまでの研究成果の総体的見直しとその体系化の作業にはいっていく予定である。その際、研究の進展状況の確認と全体の研究主題に対する個別的なアプローチをはかるため、日本フランス語フランス文学会(全国秋期大会)にて研究発表の機会をもちたいと考えている。そのためにはフランスへの資料調査は欠かせぬものとなる。そのため早い段階に今年度の調査結果をまとめ、その成果を関西シュルレアリスム研究会の定期発表会にて問い、ついで夏頃までにはフランス(パリ国立図書館)での調査を済ませ、そこで新しい研究への足掛かりを築いたうえで学会での発表をおこなうという手順にしたい。そしてその成果をもとに、今年末までに博士論文の執筆を終え、貴会の支援に十分こたえるような結果を報告に及びたいと考えている。
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