2014 Fiscal Year Annual Research Report
美術館展示と鑑賞体験-大正期の「美術」鑑賞制度の変容に関する東西比較交渉研究
Project/Area Number |
14J03001
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
安永 麻里絵 筑波大学, 芸術系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 美術史 / 美術館博物館学 / 仏教美術 / 20世紀 / 日本:ドイツ:オランダ |
Outline of Annual Research Achievements |
1.1920年代の西欧における日本・東洋美術の受容研究として、ドイツ人美術史家カール・ヴィートのオランダでの活動、特にドイツ人銀行家エドアルト・フォン・デア・ハイト男爵の美術コレクションとの関わりに焦点を当て調査研究を行った。オランダ王立図書館、国立美術資料センター、アムステルダム大学附属図書館、オランダ国立美術館附属図書室などで行った資料調査に基づき、これまでほとんど認知されていなかったがオランダ国内初の東洋美術専門の美術館施設として歴史的意義のある、オランダ東洋美術館(通称ペトルッチ美術館、後年イ・ユェン美術館に改称)について、その成立過程を明らかにするとともに、ヴィートによる展示構成の分析を行った。その結果、「東洋と西洋の融合」という理想が美術館設立の思想的背景としてあったこと、ヴィートの東洋美術(特に仏教彫刻)に対するアプローチの中心に美術様式論があったことなどを明らかにした。この研究結果を論文にまとめ、Netherlands Yearbook for history of Art 第65号に投稿し、受理された。 2.美術史学における比較交渉研究の方法論について、従来の方法を批判的に検討し、単純な文化比較ではなく、多視点的・双方向的な視野に立った文化交渉の研究手法について模索・考察し、国際美術史コンソーシアム主催第12回エコール・ド・プランタンおよびジャポニスム学会賞受賞記念講演にて口頭発表した。 3.研究代表者が2013年に発表した論文「伝統と近代のはざまでー美術史家カール・ヴィートの日本滞在と『日本の仏教彫刻』」が第二回ジャポニスム学会奨励賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大正期の美術鑑賞制度の変容に関する東西比較交渉研究の端緒として、大正初期に来日したドイツ人美術史家カール・ヴィートが1920年代初頭(すなわち日本の大正中期にあたる)にオランダで実践した仏教彫刻の展示について、オランダ国内のアーカイヴ等で資料調査を行い、新資料を発見することができた。また、この展示が行われた美術館の成立背景を明らかにする過程で、当時のオランダにおける日本美術・東洋美術の受容環境についても新たな見解を得ることができた。これらの調査結果を、研究代表者のこれまでの研究と総合し、さらに分析と考察を加えて論文にまとめ、オランダの学術雑誌Netherlands Yearbook for History of Art に投稿し、受理された。 また、東西文化交渉を研究対象とする方法論について、これまでの比較文学・比較芸術などの研究動向の変遷を批判的に再検討し、相対的視点に基づく新しい比較研究の手法の可能性について提示することができた。口頭発表や質疑応答を通じて、これに関する考察を深めることができた。 これらの研究結果を踏まえ、今後大正期の「美術」をめぐる東西比較交渉研究をさらに進めていくうえで、西欧における特に思想的側面での日本美術受容にかんしてさらなる研究を要する問題を浮かび上がらせることができたと同時に、日本の大正期の美術をめぐる動向に関して、より具体的な研究課題を絞り込むことができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の進め方としては、まず、西欧における思想的側面での日本美術(史)受容と日本美術(史)論の展開を辿るとともに、日本における日本美術史、とくに仏教彫刻史の言説形成における西欧的様式論の受容と展開について研究する。この問題を、東西双方における美術市場形成、美術館制度の成立と展開に伴う鑑賞空間あるいは鑑賞体験のあり方の変化とも関連付けて研究する。とくに後者については、資料に基づく鑑賞空間、展示空間の再構築と分析を行いたいと考えている。
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