2015 Fiscal Year Annual Research Report
美術館展示と鑑賞体験-大正期の「美術」鑑賞制度の変容に関する東西比較交渉研究
Project/Area Number |
14J03001
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
安永 麻里絵 筑波大学, 芸術系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 美術史 / 美術館博物館学 / 20世紀 / 日本:オランダ:ドイツ:アメリカ / 美術館展示論 / 文化人類学 / Karl With |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 日本の明治末期から大正時代にあたる1910年代から1920年代の日本美術を介在した東西文化交渉について、ドイツ人美術史家カール・ヴィートがアムステルダムで実践した仏教美術展示について、筑波大学にて口頭発表を行った。本発表ではとくに、ヴィートの日本美術論が、大正末期から昭和初期の日本の仏教彫刻研究者たちにすでに密かに受容されていた可能性を指摘した。 2. 筑波大学とベルリン自由大学の共同研究(筑波-DAADプロジェクト)「伝統と近代の再構築」(代表:筑波大学平石典子准教授)に参加し、ベルリン自由大学で開催されたワークショップで口頭発表を行うとともに、論集に寄稿した。 3. カール・ヴィートが1929年から1932年に考案した新しいケルン美術工芸博物館の常設展示「目的と形体、色彩と装飾」について、オーストラリア文化人類学会の国際年次大会で口頭発表を行った。「機能主義」の観点を導入した本展示の構想が、ヴィートが上述のアムステルダムでの仏教美術展示で提唱していた「展示における美術史的視点と文化史的視点の統合」という発想をさらに展開させたものであることを示した。また、異文化理解の促進を目指したこのような執筆活動・展示行為もまた、欧米における観光産業に内包される植民地主義的文化観の保存と無関係でいられないことに、ヴィート自身が自覚的であったことを指摘した。セッションのディスカッションを通じて、ヴィートの当時の展示構想の基盤となる学術的立場が、ドイツにおけるそれまでの民族学から一線を画しており、その後アメリカで発展することになる萌芽期の文化人類学的視点にむしろ共鳴していたのではないか、という新たな仮説を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本の大正期・西洋の20世紀初頭における美術鑑賞制度の変容に関する東西比較交渉研究として、ドイツ人美術史家カール・ヴィートの仏教美術研究とその展示について、さらに考察を深め研究を進展させることができた。昨年度末に初稿が受理されていたオランダ学術雑誌Nethelarnds Yearbook for History of Art投稿論文では、ヴィートの1920年代のアムステルダムでの仏教彫刻展示を取り上げたが、口頭発表等で得たフィードバックをもとに、今年度に入ってからオランダ国内のアーカイヴ等でさらなる追加調査を行い、この事例を岡倉覚三らの影響下で完成したアメリカのボストン美術館における展示や、同時期のオランダ・ドイツにおける公的美術館の展示と比較し、岡倉らの展示をひとつの参照モデルとして、欧州各地の美術館で様々な試行がなされていたことを示すことができた。 また、同時代の欧米における日本美術研究において重要な情報伝達媒体として機能していた美術雑誌『国華』の英語版を実見する機会を得るなど、欧州における日本美術史の言説受容にかんして充実した資料調査を行うことができた。 さらに、オーストラリア文化人類学会で発表の機会を得たことで、これまで美術史学の立場から進めてきた本研究を、文化人類学の視点からも考察するための具体的な足がかりを得ることができた。これは、今後本研究をより複合的な視点から進めていく上で重要な契機となるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度には、これまで様々な側面から検討を重ねてきたドイツ人美術史家カール・ヴィートの日本美術研究および美術品展示関する事例研究を総合し、20世紀初頭の日本とドイツ語圏西ヨーロッパを中心とした欧米における日本美術をめぐる言説の生成と展開の双方向的な知的交流の中に位置付けることを目指す。そして、ヴィートの理論と実践が総体として、二度の世界大戦における彼自身の苦難の経験に深く根ざした博愛主義的で文化相対主義的な美術概念の理想として構想されていることに着眼し、その今日的意義を考察したい。 同時に、ヴィートの仏教彫刻の様式論がすでに大正末期から昭和初期にかけて日本の仏教美術研究者に受容されていた事例をヒントに、同時期の日本における美術鑑賞制度の変容と明治期からの展開について、日本国外の学術動向との知的交流の実態を解明にすべくさらなる調査研究を行いたい。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] A Trifurcate Crossing between the Traditional and the Modern: Karl With's Study in Japanese Buddhist Sculpture and Histories of Art in Japan2016
Author(s)
Noriko Hiraishi (ed.), Introduction by Irmela Hijiya-Kirschnereit, with contributions by Keiichi Aizawa, Kensuke Chikamoto, Muneo Kaigo, Yuki Murakami, Marie Yasunaga, Noriko Hiraishi, Niels H. Bader, Yutaka Tsujinaka, Frank Kaeser, Dinah Zank, Martha-Christine Menzel, et al.
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Journal Title
Ruptures and Continuities of Japanese Modernization: Perspectives on Japan's Modern Transformation
Volume: 1
Pages: 85-102
Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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