2015 Fiscal Year Annual Research Report
バングラデシュにおける乳幼児のケアと教育(ECCE)-地域的視点からの再考-
Project/Area Number |
14J03106
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
門松 愛 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 途上国 / 就学前教育 / 幼児教育 / 育児観 / バングラデシュ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、途上国における乳幼児のケアと教育(Early Childhood Care and Education、以下ECCE)普及の意義・手法を地域レベルから問い直す手がかりを得ることを目的としている。バングラデシュでは、ECCEの一環である就学前教育が正式に導入されたのが2010年であり、ECCEの概念自体が比較的最近のものである。当該年度は、①私立機関での就学前教育の実態と制度的正規性、②保護者と教員の就学前教育の教育手法に対する認識、③保護者の就学前教育選択(通学させる・させない、学校施設選択)の論理の3点を明らかにした。特に重要なのは、③の保護者の就学前教育選択の論理である。具体的には、保護者が子どもをなぜ就学前教育に通わせるのか、もしくは通わせないのかについて、保護者へのインタビュー調査をもとに明らかにした。結果、保護者は、学校教育への期待と育児観(子ども期・子どもの能力への認識、学校への認識、保護者の役割意識の総称とする)との折衝を経て就学前教育の選択をしていることが明らかとなった。具体的には、通学させている保護者では、早くからの教育に価値を置く点は共通している一方で、学校内でも保護者が傍にいることで子どもが安心して学べるとする母子関係を重視する立場と、保護者が傍にいないことで子どもは学習に集中できるとする立場があることが分かった。一方で、通学させていない保護者に関しては、①子ども期・子どもの能力と、学校との適性がまだないと思う、②より良い学校に通学させたいので通えるようになるまで待つ、③就学前教育対象年齢(5歳)の子どもは家庭で教育すれば良いといった理由により通学させていないことが分かった。これらの結果は、ECCE普及のあり方を考えるうえで、ECCEと当該国の育児観や学校教育観との融合・相克の様相を示しており、他の途上国に対しても示唆に富むものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、途上国でのECCE普及の意義と手法を地域レベルから問い直す手がかりを得ることを目的としている。この目的を達成するために、①提供者の考えるECCEの質、②受益者側の子ども観、育児観、女性観等と提供されるECCEとの相克・融合のあり方、③ECCE導入による保育の私事性の変容という3点を研究課題として設定してきた。 ①については当該国のECCEに関連する政策を明らかにし、主要な提供主体である政府機関、NGO、私立機関の3者全てにおいてその実態を把握することができている。また、政府機関、NGO、私立機関の関係者(校長や教員等)に対し、ECCE(特に就学前教育)の質として、「遊びを通した学び」という政府が推奨する教育手法と、学校教育で伝統的な座学中心(talk & chalk)の教育手法に関するインタビュー調査をおこない、その質認識に関してもデータを収集している。 ②については、保護者へのインタビュー調査をもとに、保護者が、どのような学校教育観と育児観に基づき、子どもを通学させるか否かを決定しているかについて明らかにしてきた。特に、学校教育への期待が高まりつつある当該社会においてでさえ、学校教育への期待のみでは就学前教育を普及させることはできず、5歳児という幼い子どもが対象であるがゆえに、その育児観との折衝を経て、就学前教育の選択がなされることを明示した。ただし、調査対象地が1地域に限られているという限界がある。 ③については、通学させている保護者と通学させていない保護者の対比により、当該社会での変化の様相を捉えることはできているが、保育の私事性という観点では、保護者と子どものみに焦点をあてているこれまでの研究では不十分であり、保護者を取り巻く家族やコミュニティ、学校などより包括的な視点を取り入れる必要がある。 以上、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究では、バングラデシュのECCEに関連する制度を明らかにし、受益者側に就学前教育がどう捉えられているかが明らかになってきた。今後の研究では、以下の2点について研究を進めていく予定である。 1つ目は、より包括的な視点をもって、就学前教育の導入が当該社会の子育て、子ども期、学校教育に与える影響を検討し、より精緻に地域的な視点からみた就学前教育の普及の様相を捉えていくことである。すなわち、これまでの研究で当該国では母子関係が子育ての基本であることが明らかになったことを踏まえ、母子関係を主軸として、子どもの家庭から学校への移行がどのように行われているかを、家族や学校、地域社会の状況など、保護者と子どもを取り巻く視点を取り入れながら明らかにしていく。そのために、1か月以上の長期の現地調査をおこない、インタビュー調査や参与観察の手法を用いて、当該社会の子育てのあり方、学校側の対応について詳細かつ体系的な調査を実施する。 2つ目は、実態を体系的に理解するための理論的な枠組みの検討である。この点に関して、ユリー・ブロンフェンブレナーの生態学的アプローチや、バーバラ・ロゴフの文化的営みとしての発達という視点など、子どもの家庭から学校への移行を、社会文化的背景を踏まえたうえで捉えるために示唆に富む先行研究がある。今後は、これらの関連する文献の精読をおこない、理論的な枠組みの構築を目指す。 なお、調査対象地について、これまでは首都ダッカと北西に位置するショイエドプール郡において調査を進めてきたが、バングラデシュの一国としての多様性を踏まえ、宗教的経済的特徴から新たに調査地を加えることを検討中である。
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Research Products
(5 results)