2014 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀アメリカにおけるピクチャレスク美学の移植と変容
Project/Area Number |
14J03240
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
近藤 亮介 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ピクチャレスク / 英国:アメリカ / 19世紀 / 美学 / 庭園 / ランドスケープ / 都市計画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、18世紀の英国で成立した「美」と「崇高」に次ぐ第三の美的範疇「ピクチャレスク」を19世紀アメリカ合衆国の文脈において検討することで、ピクチャレスク美学が近代の景観設計・都市計画の基礎を形成する潜勢力として作用した可能性を考察する。 研究1年目にあたる本年度は、19世紀前半のアメリカにおけるピクチャレスク移植について、ハドソン・リヴァー派による風景画と農園・霊園における土地改良を中心に精査した。具体的には、トマス・コールとフレデリック・エドウィン・チャーチによる風景画・絵画論、トマス・ジェファーソン所有の農園「モンティチェロ」、マウント・オーバーン霊園、グリーンウッド霊園、アレクサンダー・ジャクソン・デイヴィス設計の農園「ベルミード」などを対象に、現地調査を踏まえて行った。その研究成果として、ピクチャレスク美学の言説とアメリカ人農業家・建築家との影響関係を検討する「アメリカへのピクチャレスク移植――19世紀前半の農園と霊園を中心に」を、日本18世紀学会第37回大会(東京大学、2015年6月20日)にて発表予定である。 また、19世紀前半の英国におけるピクチャレスクについての理解を深めるために、1790年代以降のウィリアム・ギルピン、ユーヴデイル・プライス、リチャード・ペイン・ナイト、ハンフリー・レプトン、ジョン・クラウディウス・ラウドン、ウィリアム・ソウレイ・ギルピンらによる著作の読解を進めてきた。その研究成果の一部として、美学言説と文芸との関係性からピクチャレスクの社会的受容を考察する「ジェームズ・プラムトリが見たピクチャレスク美学――『ザ・レイカーズ』(1798)を読む」を『日本18世紀学会年報』(日本18世紀学会、第30号、2015年6月)に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、長期休暇を利用して海外調査を行うことができ、現地の実見調査および一次資料の調査・収集は当初の計画通り順調に進展した。ただし、研究を進めるなかで農園・霊園とピクチャレスク美学の関係が予想以上に重層的であると判明したため、18世紀英国の庭園・土地改良関連著作に遡って一次資料の読解を行う必要性が生じた。19世紀前半のアメリカの風景画および建築におけるピクチャレスク美学に関する研究がやや遅れているのは、以上の理由による。しかし、論文を1本発表し、来年度6月には学会発表予定であることから、全体として研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目にあたる来年度は、引き続き19世紀アメリカの農園と霊園におけるピクチャレスク美学の移植・変容を跡づけると同時に、建築および都市計画におけるピクチャレスク美学の潜勢力についても検証する。建築の領域では、アレクサンダー・ジャクソン・デイヴィス、イシエル・タウン、アンドルー・ジャクソン・ダウニングらによる1830-40年代のゴシック・リヴァイヴァル建築と「パターン・ブック」出版を中心に扱う。都市計画の領域では、フレデリック・ロー・オルムステッドの1850-60年代の活動に焦点を合わせ、カルヴァート・ヴォークスとの協働によるセントラル・パークをはじめとする公園設計から国立公園構想に関する草稿「ヨセミテとマリポサ・グローブ」に至る過程を精査する。 様々な領域へ拡散し、変容していくピクチャレスク美学を、同時代の超絶主義、アメリカ先住民政策、奴隷解放運動や南北戦争といった思想的・政治的背景に留意しながら体系的に分析し、論文にまとめる。
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Research Products
(1 results)