2014 Fiscal Year Annual Research Report
認識的正当化問題に対するウィトゲンシュタインの治療的応答の洗練
Project/Area Number |
14J03344
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
白川 晋太郎 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ブランダム / 推論主義 / セラーズ / 後期ウィトゲンシュタイン / 観察報告 / ネオ・プラグマティズム / 規則 / 正当化 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題は、アグリッパのトリレンマという問題と、セラーズの「所与の神話」批判を踏まえた上で、経験的信念の正当化はいかにして可能であるかを検討することである。経験的信念の正当化の出発点となる基礎は、(1)概念的である、(2)それ自体はさらなる正当化に訴えることなく何らかの意味で正当化されていなければならない、という二つの条件を満たしている必要がある。
本年度は、それぞれの特徴を有するものが具体的にどのようなものであるかを明確にした。まずロバート・ブランダムの推論主義に依拠し、ある内容が概念的であることを、その内容が主張されることによって推論ネットワークの中に位置づけられていることだと理解した上で、主張の一種である観察報告は、条件(1)を満たすことができることを明らかにした。続いて、ブランダムの理論によって条件(2)も満たすことができるかを検討した。ブランダムは非概念的な知覚経験に正当化の役割を認めず、観察報告者の信頼可能性に関する他者の評価に訴えることによって、観察報告の正当性を説明する。だがそれでは評価に関する無限後退が発生してしまうことが判明した。そこで本研究者は、ウィトゲンシュタインの『確実性について』の「蝶番」というアイデアに示唆を受けて、「私的規則」という概念を考案し、観察報告は私的規則の表明であるとした。規則を基準に正誤が判断される以上、規則は誤りえない。私的規則は、その意味で、確実・不可謬・不可疑という基礎づけ主義者が求めてきた諸性質を持っており、条件(2)を満たすことができると考えられる。
以上より、基礎の二つの条件を同時に満たすという本研究の重要な課題は達成できる見通しがたった。規則には正誤がなく、それ以上の正当化は必要ないが、観察報告によって明確に表明(主張)されることによって、正当化の連鎖の出発点に位置づけられるという説明が可能となるからである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究によって、基礎の二つの条件を満たすものを明確になり、二つの条件を同時に満たす道筋も見えた。現段階で研究計画全体の三分の二ほどが遂行されたことになるので、このような評価となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で重要な役割を果たす「私的規則」という概念の明確化が必要である。私的規則を厳密に定式化し、何がそれに含まれるかの基準を作成することが課題となる。また学会発表や論文発表を通して、これまでに得られた成果に批判的検討を加え、洗練させていくことも必要である。
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Research Products
(4 results)