2014 Fiscal Year Annual Research Report
15-17世紀カシミールのヒンドゥー・ムスリムの知的交流:翻訳文献を手がかりに
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14J03352
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小倉 智史 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | カシミール / 歴史叙述 / 翻訳研究 / ペルシア語文献 / サンスクリット文献 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) これまでの研究成果をまとめて、2014年度末に『「タランギニー」から「ターリーフ」へ 15-17世紀カシミールの歴史叙述の研究』と題した博士論文を京都大学大学院文学研究科に提出した。 (2) 『王統記』ペルシア語訳のジョーナラージャ部分の校訂テクスト作成作業は、2014年度中に完了できなかった。しかし作業は順調に進行しており、2015年度中の早い時期に完了する見通しである。また『王統記』ペルシア語訳に基づいた作品である『カシミール史簡略版』のテクスト作成については、2014年度中に完了した。 (3) 『王統記』原典とペルシア語訳の内容比較:計画に従って研究を遂行した。得られた知見は次の通りである。まず、アクバル宮廷に献呈された『王統記』の写本の系統をある程度特定することができた。原典で用いられている術語の翻訳については、Rajaなど当時の南アジア・ムスリム社会においてある程度周知されていたものはそのまま借用されているが、その他の宮廷の官職名などはAmirなどといったムスリム政権のそれに置き換えられている。MahadevaやParvati等ヒンドゥーの神格はそのまま転写されている。一方イスラーム神学に基づいた表現も訳文の随所に挿入されている。 (4) ジャーミー『ユースフとズライハー』とシュリーヴァラ『物語の興味』の比較:計画に従って研究を遂行した。得られた知見は次の通りである。『ユースフとズライハー』の著者ジャーミーはスーフィーでもあり、存在一性論の影響を強く受けている。『ユースフとズライハー』冒頭でも絶対無限定一者が多なる世界へと自己顕現していく過程が長々と綴られているが、シュリーヴァラはこれをシヴァの自己顕現の過程として訳している。その際「意志作用の力」といったカシミール・シヴァ教の術語が用いられている。但しシヴァの自己顕現に愛(ラーガ)が介在するといった表現はジャーミーの表現に基づいたものとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『王統記』ペルシア語訳のジョーナラージャ部分の校訂テクスト作成作業は完了しなかったものの、作業が順調に進んでおり、2015年度早期の完了が見込めるため。また博士論文を予定通り提出できたため。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度早期に校訂作業を完了させ、英訳の作業を進める。その他『カターカウトゥカ』研究、リシ関連文献研究についても、研究計画に従って遂行する。『カシミール史簡略版』のテクストについては、人名や地名などのサンスクリット原典における表記などを注につけて、2015年度中に公開することを予定している。
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Research Products
(9 results)