2015 Fiscal Year Annual Research Report
高次元極限法による高次元ブラックホール研究とその応用
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14J03387
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
田邉 健太朗 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ブラックホール |
Outline of Annual Research Achievements |
高次元極限法は、時空の次元Dに対して高次元極限を考えることで1/D展開をしアインシュタイン方程式を解析する手法である。この手法は我々が現在開発しているものであり、様々なブラックホール物理の解析に有効な手法である。平成26年度には高次元極限法の基礎を確立するために、ブラックホールの線形摂動解析に高次元極限法を適用し、準固有振動数を解析的に求めるなど大きな成果を得ることができた。特に回転ブラックホール解の不安定性を解析的に示すことができた点は非常に大きな進歩であった。 平成27年度はそれらの結果を基に、アインシュタイン方程式の非線形解析に高次元極限法を拡張応用を試みた。平成26年度の結果より、高次元極限においてブラックホール近傍に閉じ込められる低エネルギーモードは非常に単純な構造をもっていることが線形解析で明らかになった。これは非線形解析のレベルにおいても高次元極限法を適用できる可能性を示唆している。我々は動的ブラックストリング解の構成や定常ブラックホール解やブラックリング解の構成、またそれらの解の安定性解析を実施することで、その示唆を確かめることができた。これらは数値計算においてのみその結果が得られていたものであり、解析的なアプローチにより解を構成し安定性解析まで可能であることは予想しておらず、高次元極限法がブラックホール物理に対して非常に強力な手法であることを示している。また、高次元極限法によりアインシュタイン方程式から抽出される動的ブラックストリング解の有効方程式は、外力が加わった流体方程式となり、ブラックストリングを粘性など物理的性質を持つメンブレンと見なすことができる。これは古くよりブラックホール物理学において用いられてきた現象論的手法であるメンブレンパラダイムであり、我々はそのメンブレンパラダイムをアインシュタイン方程式から第一原理的に導出したことを意味する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の結果より、アインシュタイン方程式の非線形解析にも高次元極限法は適用可能であることが期待できた。しかし、実際に解析的にブラックリング解を構成でき、さらにはそれらの解の安定性解析まで可能であることは予想を超えた結果である。さらに動的なブラックストリング解を構成することで、ブラックストリングが持つ不安定性の非線形時間発展を解析し、その最終状態が非一様ブラックストリング解になることを特定したことはブラックホール研究において非常に重要な結果である。これらはどれも今まで数値的にかつ限られたセットアップにおいてのみ解析されていたものであるが、解析的手法である高次元極限法がそれらの問題に適用可能であることから、今後、さらなる系統的な解析が期待できるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度と平成27年度の研究において、高次元極限法の基礎が構築され、非線形解析における適用法確立への第一歩を踏み出すことができた。そこで今後の研究においては、高次元極限法をゲージ場やスカラー場などの物質場を含んだ重力理論へと拡張し、動的ブラックホール解構成法の一般論を作り出すことを目指す。これは超弦理論やAdS/CFT対応による物性系物理への応用を見越してのためである。それらの応用分野は物質場を含んだ理論であり、ブラックホールと物質場の相互作用が重要となる。非線形解析までも可能にする高次元極限法をそれらの理論に応用することで、超弦理論や物性系物理へ新たな知見と発見をもたらすことが今後の研究における重要な課題となる。
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Research Products
(9 results)