2014 Fiscal Year Annual Research Report
近世オランダにおける宗派間関係-寛容の社会的・政治的機能に着目して-
Project/Area Number |
14J03411
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安平 弦司 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 寛容 / 宗派間関係 / 宗派化 / オランダ / 近世史 / ユトレヒト / カトリック / 改革派 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、これまで曖昧なまま用いられてきた「寛容」の語に厳密な定義を与えつつ、オランダ共和国(以下、共和国)、中でもユトレヒトにおける、改革派とカトリック(以下、両派)の宗派間関係と、その関係性を規定した寛容の機能を明らかにすることを課題としている。本年度はまず、1670年代ユトレヒトにおける両派の関係性と、それを規定した寛容の機能に関する分析を行った。その結果、フランス軍による約1年半の占領を経験した1670年代ユトレヒトにおいて、多様な種類の寛容が両派の宗派間関係をその都度規定し直し、当地の社会における公的領域の編成が大きく変化したことが明らかとなった。その際、信仰実践を巡る両派の闘争の一因は、物理的空間としての家の境界線と、当事者たちが思い描く観念的な《公/非公》の境界線との不一致にあった、という従来とは異なる新たな主張も展開した。この研究成果の一部を、西洋史読書会第82回大会(2014年11月、京都大学)において口頭で報告し、論文としてまとめて雑誌『史林』(査読有り)に投稿した(掲載決定済)。次に、上述の研究の中で十分に示すことができなかった、《公》なるものの輪郭と、黙認としての寛容が機能するための条件の臨界について明らかにすることを試みた。具体的には、ユトレヒト市内のカトリック隠れ教会聖ヘルトルーディスを巡る1639-40年の訴訟を分析した。この研究は未だ最終的な結論には到達していないが、暫定的に以下のことが言える。「公共の安寧」を脅かす「公的な」敵となった時、そのカトリックは黙認としての寛容の臨界を突破したことになった。換言すれば、信仰が戦争や布告や社会秩序といった《公》なるものに関わった時に、カトリックは寛容の適用外に投げ出されたのである。この研究成果の一部を、近代社会史研究会第253回例会(2015年3月、京都大学)において口頭で報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究実施計画では、本年度は1670年代ユトレヒトに関する分析に一区切りをつけ、17世紀半ば、特に1640年代以降のユトレヒトに関する分析を本格化することを目指していた。実際、1670年代に関しては口頭報告と論文の形で成果を公表することができ、17世紀半ばに関しても口頭報告を行うことができた。しかし、1670年代に関する分析は完結しておらず、17世紀半ばに関する分析についてはまだその初期段階に達したのみである。以上のことを鑑み、本年度に関しては「(3) やや遅れている」という自己評価を下す。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度に生じた遅れを取り戻しつつ、研究を進展させていきたい。まず、1670年代ユトレヒトの改革派とカトリック(以下、両派)の宗派間関係と寛容の機能について、近年ヨーロッパ規模で盛んに議論がなされている宗派化論との関わりを意識しながら、財政問題の側面から検討を行う。次に、17世紀半ばの両派の宗派間関係と寛容の機能に関しては、既に検討を進めている1639-40年の訴訟に関する分析を完成させる。こうして研究の遅れを取り戻した上で、1640-60年代に書き留められた、カトリック隠れ教会に関する世俗当局や改革派教会会議の調査報告書やカトリックの覚書を史料として用いながら、当該時期の両派の関係性と寛容の機能を明らかにすることを試みる。また、以上の研究を効果的に推進するため、次年度後期からユトレヒト大学で在外研究を実施することを計画している。
|
Research Products
(6 results)