2015 Fiscal Year Annual Research Report
近世オランダにおける宗派間関係-寛容の社会的・政治的機能に着目して-
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14J03411
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安平 弦司 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 寛容 / 宗派間関係 / 公的領域 / 宗派化 / 救貧 / オランダ / ユトレヒト / カトリック |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず、近年の近世史研究における最重要の概念の1つである「宗派化」を取り上げ、オランダ史における同概念の受容の過程を学説史的に明らかにした上で、17世紀ユトレヒトにおける宗派化の展開を、主に救貧の観点から分析した。分析の結果、宗派化論を達成度面から安易に拒絶することなく、それが示した近世的な権力メカニズムの視角を保持した理解が可能であることが示された。この研究成果の一部は、歴史家協会第14回大会(2015年6月、同志社大学)における口頭報告の他、『史林』第98巻6号(2015年)所収の書評においても活かされた。年度後半からは当初の研究計画通り、ユトレヒト大学のJ・スパーンス博士の指導下で在外研究に従事した。在外研究では、1620-70年代ユトレヒトにおける財政問題とその解決策へのカトリックの関与のあり方を、主にユトレヒト文書館所蔵の救貧関連史料を元に分析した。当該時期において、ユトレヒトの世俗当局は改革派教会からの圧力の下、都市の《公》の財政運営からカトリックを制度的に排除することを繰り返し試みた。それは実践面では貫徹されなかったが、1672-73年のフランス軍による都市占領が既存の財政問題を悪化させたことで、フランス軍撤退直後にカトリックのみが《公》の都市救貧院から排除され、カトリック救貧院が設立を余儀なくされた。その1年後世俗当局は、カトリック救貧院の募金活動が「公的」であるが故に当局の《公》の統治を侵害しているとして、カトリックに募金活動の停止を求めた。これに対してカトリックは、《公》の都市共同体への献身を喧伝し、視覚や聴覚に基づく独自の定義付けに従い、自らの募金活動は「非公的」であるが故に黙認され得ると主張し、結果的に募金活動の継続を勝ち得た。この研究成果の一部を、ユトレヒト大学で開催された国際会議において3回に渡り口頭で報告し、英語論文の投稿準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の研究計画通り、オランダ史における宗派化論の受容を学説史的に明らかにした上で、1670年代ユトレヒトに関する分析を完了させることができた。また、1620-70年代の宗派共存と財政問題に関する研究では、当初の計画以上の成果を上げ、ユトレヒト大学で開催された国際会議において3回に渡って口頭報告を行うことができた。研究計画通りに年度後半より開始した、ユトレヒト大学人文学部宗教・哲学科での在外研究を通じて、オランダをはじめ世界各地の研究者と分野を問わず意見交換を重ねることもできた。さらに、ユトレヒト大学及びユトレヒト文書館で開講された講座に出席することで、今後の研究を進める上で欠くことのできない近世文書学の技能を習得することもできた。しかし他方で、1620-70年代ユトレヒトの宗派共存と財政問題に関する英語論文を完成させるまでには至らず、また当初の計画で掲げていた17世紀半ばの対カトリック裁判に関する分析には取りかかることができなかった。以上のことを鑑み、本年度に関しては「(2)おおむね順調に進展している」という自己評価を下す。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きユトレヒト大学での在外研究に従事する。まず最初の目標としては、既に執筆を開始している、1620-70年代ユトレヒトの宗派共存と財政問題に関する英語論文を完成させ投稿することが挙げられる。また、本年度に習得することのできた近世文書学の技能を活かして、ユトレヒト文書館に所蔵されている未刊行の手稿史料の読解を進めていきたい。特に、本年度の研究で明らかになった、流動的な闘争の場としての《公》なるものと、都市共同体における《公》なるものの境界確定作業へのカトリックの能動的参加という論点は、今後の研究において重要な参照点となる。このことを念頭に置いた上で、次に、既に検討を進めている1639-40年の裁判を含む、17世紀半ばのユトレヒトにおける対カトリック裁判の分析を完了させる。さらに、これまでの分析結果を綜合し、博士論文「宗派間関係と寛容の機能―1620-70年代ユトレヒトにおけるカトリックと《公》なるものの境界確定―」(仮題)を完成させ、年度内に京都大学大学院文学研究科に提出することを目指す。また、本研究に関連する国際学会が開催される場合には、積極的に参加し研究成果を発信していく。
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Research Products
(5 results)