2015 Fiscal Year Annual Research Report
宇宙機の高精度軌道決定のための精密非重力外乱モデルの研究
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14J03417
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
五十里 哲 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 非重力外乱 / 精密軌道決定 / 太陽輻射圧 / 熱輻射圧 / 空力外乱 / 測位衛星 / 深宇宙探査機 |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙機はそれぞれの働きに合わせて多様な形状を持つため,どのような形状であっても高精度に非重力外乱を計算することができる一般性の高いモデルが求められている.一方で,高精度な非重力外乱計算には膨大な計算時間がかかってしまうため,計算コストを削減する必要がある.さらに,計算機に与えられた宇宙機の構造,熱光学特性情報と軌道上に打ち上げられた宇宙機の実際の情報の間には必ず差異が存在するため,フライトデータを基にモデル補正を行う必要がある.このような,高精度でありながら高速計算が可能かつモデル補正も可能となるような一般性の高い計算モデルを構築するため,申請者はコンピュータグラフィクス分野の高速レンダリング手法を参考に,「事前計算テンソルを用いた太陽輻射圧計算手法」を考案した.本提案手法では,太陽輻射圧計算を事前計算フェーズと実計算フェーズに分ける.高精度化のために必要となるコストの高い陰や反射特性の計算は事前計算フェーズで行い,その情報をテンソルに圧縮する.実計算フェーズでは事前計算されたテンソルを用いて高速に太陽輻射圧を求めることができる.さらには,事前計算テンソルを形状情報と光学特性情報に分割することで,フライトデータを利用した光学特性推定を行うことも可能となった.
さらに,本年度は超小型深宇宙探査機PROCYONを利用した非重力外乱の測定実験にも取り組んだ.本研究で取り扱う非重力外乱は,とても小さな力であるため地球上での観測は極めて難しく,軌道上にある宇宙機のデータを解析することでしか実際の力を計測することはできない.そこで本研究ではその貴重なデータを収集するため,2014年に打ち上げたPROCYONを用い,PROCYONに加わる外乱データを1年間にわたり計測してきた.この計測データを用いて,今後上記提案モデルの健全性確認などを行う予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目に当たる本年度は当初の計画通り,「宇宙機の詳細な構造,姿勢,光学特性モデルを考慮した精密非重力外乱計算アルゴリズムの構築」を行った.非重力外乱の中でも最も大きな力である太陽輻射圧について,従来のモデルと比較して次のような利点を持つ太陽輻射圧モデルを構築することができた.「①陰の効果を考慮した精度の高い太陽輻射圧計算が可能となる」,「②BRDF(Bidirectional Reflectance Distribution Function)のような高精度で複雑な反射モデルを用いた,精度の高い太陽輻射圧計算が可能となる」,「③どのような形状の宇宙機であっても,その形状・光学特性情報を同じ特性を持つテンソルに圧縮することができる」,「④複雑な形状で陰の効果を考慮した場合であっても光学特性推定が可能となる」,「⑤どれだけ詳細な構造モデルを用いても,実計算フェーズでの計算コストは増大しない」 また,この提案手法は,太陽輻射圧だけでなく他の非重力外乱である熱輻射圧や空力外乱の計算にも応用可能である.そのため現在,3つの非重力外乱を統一的に扱うことができる計算手法の構築をおこなっている. さらに,超小型深宇宙探査機PROCYONに加わる外乱計測を1年間にわたり行ってきたことで,来年度に計画している「実観測データを用いた測位衛星の精密軌道決定実験によるモデル精度の検証」のための実観測データを集めることができた.このデータと,測位衛星システムの観測データを合わせ,深宇宙軌道・地球周回軌道両方でのモデル精度検証を行うことができる. このように,本研究は当初の計画に沿って概ね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
まずは本年度提案した「事前計算テンソルを用いた太陽輻射圧計算手法」を発展させ,熱輻射圧や空力外乱といった他の外乱計算も統一的に扱うことができる手法を考案する予定である.また,本提案手法には解決すべき課題も残されている.一つは,事前計算テンソルを計算するときに任意の基底関数を用いて射影を行うが,その基底関数の性質によってテンソルデータの大きさが変化してしまう点である.不適切な基底関数を選択してしまった場合,データ量が増加してしまうため,最適な基底関数を選択するための研究が必要となる.もう一つは,複数反射の効果が考慮されていない点である.より高精度な太陽輻射圧計算のためには複数反射の効果を取り入れる必要があり,本提案手法にその効果を付加する必要がある.このような提案手法の更なる発展については,次年度にも引き続き取り組んでいく予定である. 提案手法の改善が完了したのちに,これまで集めてきた超小型深宇宙探査機PROCYONの軌道上外乱計測データや測位衛星システムの軌道決定データを用い,本提案手法の健全性を確認する予定である.実データと比較することにより,本提案手法の利点の一つである,「光学特性推定によるモデル補正」が実用的なものとなっているかを検証することができる.このような実観測データと数式モデルを比較し,数式モデルを補正する作業は,数式モデルの実用性を示すうえで必然的なものである. また,最終年度となる来年度には,これまでの成果をまとめてジャーナル投稿などを行う必要があり,現在も投稿に向けて準備を進めている.
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