2015 Fiscal Year Annual Research Report
「認知症」の社会学--パーソンセンタードケア時代の「責任をめぐるポリティクス」
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14J03469
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
木下 衆 関西大学, 総合情報学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 認知症 / 家族介護 / 地域包括ケア / 概念分析 / 社会構築主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は、①認知症介護における相互行為分析、そして②研究成果の報告の両面で、大きな進展があった。 まず、①認知症介護における相互行為分析について。筆者は、「認知症」という専門的概念を学ぶことにより、介護者の行動にどのような変容が起こるのか、分析してきた。これまでは「家族」を対象に、介護家族の自助グループ(家族会)などで調査を行ってきた。本年度も家族会5ヶ所で参与観察を行い、これまでの調査を発展させた。さらに本年度は、対象をより広く「地域」レベルでの、「専門職」による実践にまで拡大し、調査を行った。具体的には、関西の社会福祉法人XとNPO法人Yに協力を依頼し、継続的に調査を行った。 筆者は本年度、認知症患者の「自己選択・自己決定」というテーマに特に注目し、分析を進めた。筆者が明らかにしたのは、その自己決定を支える、専門職によるはたらきかけの重要性である。例えば法人Xでは、職員が事前に患者本人や家族にヒアリングを行い、患者個々人の「歴史や暮らし向き」を尊重したメニューを、デイサービスの中に用意していた。つまり、認知症患者の「自己選択・自己決定」が、「その人が当然好きなはず/やりたいはずのメニューを事前に用意し、それを職員がすすめる」という、職員による「はたらきかけ」を通じて達成されていると、明らかにした。 こうした②研究成果の報告を、本年度は学会報告や学術出版などの形で行った。まず、①で述べた法人Xなどでの調査については、その中間報告を日本社会学会第88回大会で行った。 さらに、②研究成果の報告としては、若手研究者16名に参加を呼びかけ、初学者向け社会調査(質的研究)のテキストブックを編集し、出版したことがあげられる(現在、印刷中)。タイトルは、『最強の社会調査入門――これから質的調査をはじめる人のために』である。筆者は編者の一人として、序章、9章、終章を分担執筆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、介護家族の自助グループでの調査を発展させるだけではなく、新たに社会福祉法人やNPO法人での調査を開始した。これは、「地域包括ケア」の理念が広く浸透する中で、実際に地域レベルでどのような介護が行われているのか、社会学的観点から明らかにする上で、重要な調査となる。 これに加えて本年度は、これまでの研究成果を博士論文(京都大学・文博第697号)としてまとめあげた。この内容をもとにした原稿は、2016年7月にオーストリアで開催される世界社会学会(ISA)での報告が受理されるなど、すでに専門的に高く評価されている。 このように、前年度までの調査の発展と、研究計画に沿った新たな調査の進展、そして成果報告のいずれの面でも大きな成果を挙げていることから、本年度の研究は、期待以上の進展があったものと捉えている。
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Strategy for Future Research Activity |
任期最終年度となる次年度は、これまでの研究成果をもとに、特に「地域」レベルでの実践に注目して、調査を行う。すでに、本年度から調査を始めた社会福祉法人XとNPO法人Yからは、調査の継続に関して承諾を得ている。今後は、それぞれが関係する「認知症カフェ」など、新たなフィールドでの調査も開始する予定である。 厚労省を中心に策定された認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)の中では、「認知症の人や家族の視点の重視」が柱の一つとして掲げられている。筆者のこれまでの研究は、この「認知症の人の視点」をいったい誰が代弁できるのか、あるいは「家族」間で視点が異なるときはどうするのか、そういったコンフリクトに注目してきたものだった。 今後は、地域包括ケアシステムの構築が目指される中で、筆者がこれまで注目してきた介護者間のコンフリクトがどのように解消されるのか、あるいは別の問題が生まれているのか、詳細な調査を行っていく。介護に多様な専門職が関わる中で、介護家族や患者本人の視点を織り込みながら、どのような相互行為が展開するのか、データを集め、社会学的に検討していく。 なお、こうした調査の際には、専門社会調査士(第A-000170号)として、社会調査協会が定めた「社会調査倫理綱領」、及び日本社会学会が定めた「日本社会学会倫理綱領」を順守する。
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Research Products
(4 results)