2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J03632
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
清水 雄大 一橋大学, 言語社会研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / フランス / ミシェル・フーコー / 哲学 / 技術 / 主体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ミシェル・フーコーの思想のなかで技術の概念がいかなる役割を果たしているのかを明らかにことである。従来、フーコーに関する先行研究は、知、権力、主体といったメジャーな概念を軸に論じてきた。それとは反対に、この研究は、それらの三要素を、技術の三つの様態として捉えることを目指している。平成26年度の研究実績は以下の通りである。 1. 当初の計画では、フーコーの権力論(大まかに言って1970年代の諸著作)の分析から始める予定であった。ところが、研究を進めるにつれて、それ以前のフーコーのテクストにおいても、技術の概念が重要な地位を占めていることが明らかとなった。そこで申請者は、フーコーの技術を主として「カントの人間学」との関係から検討することにした。この時期のフーコーの考えでは、技術とは「超越論的-経験的二重体」の蝶番をなしており、人間学の要である。このように、彼の「技術への問い」はハイデガーのそれではなく、まずカントの『人間学』との対決において始まりを見ていた。この研究の成果は、次年度に報告する予定である。 2. 次に、申請者は予定されていた通り、1970年以降のフーコーにおける「権力と技術」に関する研究に着手した。これまでの先行研究が混同してきた「権力の技術」と「権力の戦争」という二つの表現の違いを検討するために、『「社会は防衛しなければならない」』講義を中心にフーコーのテクストを分析した。権力の「戦争モデル」は「生権力」概念の導入と思われているところがある。が、実際には、闘争を規律化し矮小化する同時代のマルクス主義を批判する意図で用いられていた。以上の内容を、パリ日本館の研究会(CEM)にて報告した。また、報告した内容に加筆修正をおこない、同館が発行する雑誌に寄稿した。 3. ベルギー、フランスの大学が合同で開催する若手哲学研究者報告会にて、本研究の概論を報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で記したように、平成26年度の前半では当初の予定に含まれていなかった初期フーコーのテクストの読解に従事した。それゆえ、平成26年度の前期では、当初立てられていた予定からの逸脱が生じた。とはいえ、この迂回を経て得られた成果によって、フーコーの「技術」概念が有している哲学史上の位置づけ(とりわけ、カントの人間学との対決)を明確にすることができた。つまり、「人間の死」というフーコーの挑発的な予言を、いわば「技術的人間学」の表明として理解する可能性を明らかにした。この論点は重要であり報告にまとめるつもりであった。だが、その作業に時間を費やすとなると当初の予定からますます逸れてしまう恐れがあったために、報告は平成27年度に回すことに決定した。 平成26年度の後期には、当初予定していた通りに1970年代のフーコーの書物、論文、講義録の読解を行うことができた。彼のいう「権力と技術」と「権力の戦争」との関係について研究を推めて、フランス語の論文にまとめた。この研究は平成27年度の「自己の技術」に関する研究の基盤となるために、無事に予定を終えられたことの意義は大きい。 最後に、執筆者は現在、リール第三大学でフーコー研究を専門とするフィリップ・サボ教授に師事をしている。その一環で、平成26年度にフランス・ベルギーの若手哲学者研究会で報告する機会に期せずして恵まれた。その際、執筆者は本研究の概論を報告した。数回にわたって開かれたこの研究会では、ヨーロッパ内外からやって来た若手研究者と交流し、情報交換を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の前半では、晩年のフーコーのいう「自己の技術」に関する著作・講義録を中心に読解を進める。近年、この時期(1980年代以降)の講義録や連続講演が相次いで出版されている。そのため、まずこれら未読の書物の読解に従事する。そして、その作業を通じて得られた知見をもとにして、ドゥルーズが晩年のフーコーに認めた「襞」という概念と「自己の技術」との相違について研究する。そして、その研究の成果をまとめて報告する。 平成27年度の後半では、これまで得られた研究成果を総括する予定である。まず、前項で記したように、前年度の研究成果である「初期フーコーの『人間学』と技術の哲学」の報告をおこなう。ついで、これまでの研究成果を踏まえて、権力、知、主体という三つの概念を「技術」の三様態として理解しうるという仮説の正しさを改めて吟味する。その際に、「ポスト構造主義以後」の現代フランス哲学とフーコーとの関係について研究を深める。たとえば、ナンシーの「主体の後に誰が来るのか」という問いに見られたように、主体性の問題は再び表舞台に登場している。この「主体の回帰」の流れに先鞭をつけたのは、「自己の技術」を論じたフーコーであると見なされることがある。だが、その見方は妥当なのか。このように現代フランス哲学とフーコーとを突き合わせることで、彼の思想の現代性を浮き彫りにする。その成果は、学位論文にまとめて発表する予定である。 なお、平成27年度も引き続きフランスのリール第三大学にて研究活動に従事する予定である。同大学のフィリップ・サボ教授は、精力的に研究活動を行うのみならず、フランス国内外のフーコー研究者を招集して定期セミナーを開いている。機会があれば同セミナーで研究内容を報告するなどして、他の研究者との交流を活発におこない、研究の完成度を高めるよう努める。
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Research Products
(3 results)