2014 Fiscal Year Annual Research Report
医療ハブ化する南アジア社会における生物医療と伝統医療の位相をめぐる人類学的研究
Project/Area Number |
14J03663
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
梅村 絢美 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 伝承医療 / 南アジア / スリランカ / アーユルヴェーダ / 多元的医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度上半期は、これまでの研究成果の発表と、その問題点を追及して本研究に接続するための文献研究を行った。これまでの研究成果を発表する過程で指摘されてきたのは、診療実践の微細な記述に集中する一方で、南アジアの伝統医療、とりわけ対象としてきたスリランカの伝承医療やアーユルヴェーダが、生物医療や他の医療実践と融合しておこなわれていることについてあまり追及していない点であった。 以上を踏まえ下半期では、スリランカの都市住宅地域および農村地域という対照的な地域において伝統医療および、当該地域の医療サーヴィスのアクセス状況及び住民の医療選択状況についての調査をおこなった。そこで得られたのは、今日のスリランカにおいては、患者の疾患のあいだに差異はあるものの、医療サーヴィスのアクセスについて都市部・農村地域で顕著な差異は認められないことであった。つまり、生物医療、アーユルヴェーダ、伝承医療いずれの医療にも容易にアクセスできる環境が整っており、患者たちは疾患の度合いや医師との社会的関係等複数の要因からいずれかの医療を選択していた。ところが、具体的な診療を見ていくと、血液・尿検査やレントゲン撮影を診察の手段として利用しないアーユルヴェーダや伝承医療の治療家のもとに、患者が任意でそれらの検査結果を持参して診療を受けにやってくることが分かった。つまり、医療を選択すると一言で言っても、診断・治療という診療のプロセスで複数の医療が利用されていたのである。実際、都市部でも農村部でも、市街地には生物医療の大型私立病院が提供する血液・尿検査、レントゲン撮影専門の支店があり、住民たちは検査項目を自由に選択することができるようになっている。 本研究で得られた治療プロセスにおける多元的医療状況は、研究計画段階や先行研究において見落とされていた点であり、今後念入りに調査研究を進めていく必要がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、本研究課題の根幹を占める、南アジアの医療の位相を巡る状況について、研究計画段階では予測できなかった状況が明らかとなり、多元的医療論の先行研究で指摘されてこなかった視点を得られたことから、翌年度以降の調査研究の具体的な足がかりをしっかりつかむことができた。その意味で、研究成果が大いに得られたと考える。 いっぽう、調査に専念するあまり、論文発表などアウトプットが予定通りには進まなかった点が悔やまれる。27年度以降は、論文発表と調査のバランスを取りながら調査研究を進めていきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は調査に専念することできわめて大きな成果が得られた一方で、論文発表などアウトプットを計画通りすすめることができなかったため、27年度上半期は調査で得られた成果をにもとづき論文発表に専念することにする。また、論文発表段階で得られた新たな知見や批判的な意見等を反映させ新たな調査計画を作成することで、下半期の調査をより充実するための具体的な足がかりとしていきたい。
|
Research Products
(3 results)