2014 Fiscal Year Annual Research Report
隠蔽的な砂中間隙環境における種分化に関する研究:節足動物門貝形虫綱をモデルとして
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14J03700
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
田中 隼人 広島大学, 生物圏科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 記載分類学 / 分子系統学 / 形態進化 / 分散障壁 / 国際情報交換・韓国 |
Outline of Annual Research Achievements |
砂浜海岸の調査を,国内では瀬戸内海,山陰地方,和歌山県,静岡県,神奈川県,沖縄県で,海外ではベトナム,タイで実施した.現在,種分類と分布情報とを合わせ,間隙性動物群の分散経路の解明を進めている. 得られた間隙性貝形虫類のうち12種について18S rDNA塩基配列を決定し,分子系統解析を行った.その結果,パラポリコープ属貝形虫類の交尾行動に関わるとされている雄の上唇の形態が大きく異なる3種が,同一のクレードを形成した.この3種は近縁であるにも関わらず,雄上唇形態に大きな差異が認められ,さらに同所的に存在していることから,生殖的形質置換が起きている可能性を議論した.また分子系統解析と形態比較の結果から,ポリコープ科貝形虫類について1新属4新種の記載を行った. 静岡県三保海岸から,間隙性貝形虫類1新種を記載した.本種は上唇先端部の形状がわずかに異なる2形態型を含んでいる.本研究では,形態とは独立の指標として核DNA (ITS1, ITS2) の塩基配列を用いて分子系統解析を実施し,2者間の分類学的評価を下すことを試みた.系統解析の結果,2形態型は1つのクレードを形成し,2者間の遺伝的距離は,複数の個体群間に見られる別種の種内の遺伝的距離に相当する値であった.これらの情報を考慮し,2形態型の違いは種内変異であると判断した.同一種と思われる2つの形態型に見られた上唇先端部の形態差は,本属の種分化の最初期に,他の形質に先駆けて生殖隔離と関わる雄の上唇形態に変異が生じることを示していると推測した. 3回の航海調査によって,ミオドコーパ亜綱貝形虫類25属52種を発見した.日本近海において本分類群の研究はほとんど為されていないため,これらのほとんどは未記載種である可能性が高い.今後,分類学的研究を進めるとともに,種分化と関わる交尾器形態や雄上唇の形態を詳細に観察していく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度として,これまで明らかとされていなかった地域の(海外を含む)間隙性貝形虫類の分布を調査することができた.また,間隙性種と表在性種の多数のミオドコーパ貝形虫類の標本を得ることができた.研究対象とした貝形虫類について,種分化研究の基礎となる系統・分類学的情報が飛躍的に増加した.
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Strategy for Future Research Activity |
間隙性種の標本採集を沖縄県の慶良間諸島,久米島,宮古島の各島で行う。パラポリコープ属貝形虫の雄について,上唇形態の走査型電子顕微鏡観察を行うとともに,蛍光抗体法による免疫染色で上唇と中枢神経系の神経配置を把握する。また,上唇内部における筋肉の配置と外骨格との構造的対応関係を観察する。マイクロロクソコンカ属貝形虫類を用いて,成体の雌雄を交配させ,雌雄の交尾器の各構成要素の接触の仕方を観察・記載し,それらの機能を推測する。また,エストニアで開かれる国際会議や国内学会に参加して研究成果を公表する。同時に国際学術雑誌への投稿を順次行う
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Research Products
(6 results)