2014 Fiscal Year Annual Research Report
無限分散を持つ時系列モデルに対する、経験尤度法による判別手法の構築
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14J03721
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
明石 郁哉 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 時系列解析 / 安定過程 / 漸近理論 / 経験尤度法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、無限分散を持つ確率過程の一つである安定過程に対して、種々の基礎的な推定量・統計量の漸近的性質を導出した。特に大きな成果として、周波数領域における安定過程の非母数的な推定法の構築及びより広範な手法への拡張、また経験特性関数に基づいた高次の漸近理論の展開の二点が挙げられる。 周波数領域での解析に関するもっとも大きな成果として、安定過程に対する経験尤度法による非母数的推定法の構築に関する論文がBernoulliにて採録決定したことが挙げられる。この研究結果により、安定過程の非母数的な重要指標(例えば、自己相関係数、最良線形予測子の係数)の区間推定・検定を行うことが可能となった。また、後述の新潟大学でのシンポジウムにおいて、周波数領域での一般化モーメント法(GMM)推定量の漸近分布を求め、擬似的な漸近分散が最小となる条件を明示的に示した。 本年度の二つ目の成果として、安定過程のパラメーター推定問題に対する高次の漸近理論の展開が挙げられる。早稲田大学での国際シンポジウムにおける報告では、安定過程からの観測系列より構成される経験特性関数、及び経験尤度の一般化である一般化経験尤度(GEL)推定量を用いて、安定過程の係数を規定する未知母数及び分布の裾の厚さを規定する特性指数の推定法を構成した。加えて、GMM、GEL推定量の漸近正規性及び高次の漸近展開を示し、安定過程に対するGMM推定量の高次の項の次数は、二次定常過程におけるものと一致することが明らかになった。一方で、データブロッキングと呼ばれる手法を用いて構成された一次漸近有効なGEL推定量については、高次の漸近展開には従来現れない次数の項が現れることが明らかとなり、その次数はデータブロッキングに依存することが示された。これらの結果は日本数学会2015年度年会にて、具体的なモデルでの例を加えて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
安定過程の無限分散性より、経験尤度統計量の漸近分布を示す際には従来のモーメント評価とは異なる手法が必要とされるため、本研究の拡張は自明ではなく、革新的な解析法といえる。また、経験尤度法を用いた安定過程の非母数的推定法はモデルの従属構造や革新過程の母数の情報が未知の状況でも用いることが可能であり、この点も実データ解析に対しての強力な利点となる。 一方で経験特性関数に基づくGEL推定量の利点として、推定量の漸近分布が正規分布となり、さらに収束オーダーと言う区間推定において必要な量が未知パラメーターによらない、ということが挙げられる。安定過程の未知パラメーターに対する推定量としては、有限分散をもつ二次定常過程を扱う場合と同様にWhittle推定量及び最尤推定量が挙げられ、その一致性、漸近分布が示されている。しかし安定過程に対するこれらの推定量の収束オーダーは未知パラメーターである特性指数に依存するため、実用上の問題を持つ。また収束先の分布、及び展開式に現れる高次の項は有限なモーメントを持たず、従来の高次の漸近論で用いられていた手法は適用不可能である。さらに、従来の研究ではモーメントが発散する問題を回避するため、自己基準化と呼ばれる手法を用いていたが、この手法により安定過程を生成する革新過程の裾の重さに関する情報は失われるため、特性指数及び尺度パラメーターの推定は原理的に不可能であった。一方で経験特性関数を用いた本研究の手法はこれらの問題点を克服しており、さらに高次の漸近理論との組み合わせにより、安定過程のパラメーター推定論に対して新たな地平を切り開く可能性を大いに孕んでいる。 以上の観点より、経験尤度法及びその一般化手法に対する基礎的な研究は大きく前進しており、本研究全体としても当初の計画よりも進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の研究成果に基づき、今後は明石(2014, Statistical Methodology)の手法をさらに一般的なものに拡張することを計画している。明石(2014)は安定過程の判別問題において経験尤度に基づく判別統計量を構成し、従来のWhittle尤度に基づく判別統計量による誤判別確率を改善することを示した。そこで次年度は、GMMやGELに基づく判別統計量を構成し、更なる判別精度の向上を計画している。GEL推定量とは、経験尤度推定量の目的関数に含まれるスコア関数を一般化した目的関数に基づく推定量であり、特別な場合として経験尤度推定量、指数チルティング推定量、連続更新型推定量を含む極めて一般的な推定量である。さらに経験尤度法と同様に、着目する時系列モデルの重要指標を柔軟に選択できるため、同一のデータに対して様々な側面に着目した判別解析を行うことができる。また、重要指標は解析者が定めるモーメント制約条件と呼ばれる方程式の解として決定するが、同一のモーメント条件に対してGELに基づく判別統計量は前述のとおり複数存在するため、GEL統計量のクラスで、誤判別確率を最小とする統計量を理論的、及び数値実験で示すことも目的とする。然る後に、最適な判別統計量に基づき、実データのクラスター解析も行う予定である。 別の研究伸展として、経験特性関数に基づくGEL統計量を用いた判別解析も計画している。周波数領域での判別とは異なり、経験特性関数に基づく手法は安定過程の裾の重さなどに着目した判別解析を行うことができるため、更なる判別解析の柔軟性の向上が予測される。得られた結果は国内外の学会、シンポジウムで報告予定である。
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Research Products
(8 results)